Saturday, June 2, 2012

知識と知性

最近、「自分より経験豊富で色々知っている人」と話す機会と、「自分より若く知識はまだまだこれからと言う人」の対照的な人々と話す機会を得た。彼らの話し方・ものの聞き方、あるいは自分の話し方などを通じ、「知識と知性」というだいぶ手垢のついた話について色々考えさせられたのでメモ


◎知識とは、知性とは

・知識とは情報量、知性とは知っている情報の応用力・知らない情報の理解力といったもの。料理対決で、「あっちが庭で取れた野菜しかないのに、こっちは世界中から調達した肉魚珍味を使って勝つ」ってのが知識で、「あっちと同じ野菜だけしか使わないのに、敵よりはるかに優れた料理を作って勝つ」ってのが知性って感じかしら。
・自分の思いつく範囲での具体例は、以下のような態度と知性に連関があると思う:

①少数の具体例・経験談を、ひとりよがりに抽象化しない(「俺がこないだ会ったXさんは優秀なのに就活不調だった。なので、最近の企業の人事部は目が腐ってると思う」)。その人が特例である可能性へのまなざし。

②世の中に絶対的な正解は存在しないという相対主義的態度、ものごとを断言することへの自己抑制

③必ずしも自分の意見が正しいとは限らないと思える謙虚さ。自信をもつことも大事だが、100%正しいと疑ってやまないのと、1%でも修正余地を残しつつ話をするのではだいぶ違う

④相手の発言を正確かつ迅速に理解する能力。1言えば10わかってくれるという類の人で、喋らせて頭が悪そうという人は見たことがない気がする。





◎どっちが大事なのか

・知識と知性のバランスが大事。知識のひけらかしはとても頭が悪く見える。他方、ある程度の知識がないと知性があるかどうかも判別しにくい。
・自分にとって特に問題になるのは、知識偏重のリスク。それなりに年もとってきて、MBAも持っているので、人にひけらかせそうな知識が増えてしまっており、知識を使うことで(=知性をあまり使わず)話を安易に組み立ててしまうリスクがむしろ高まっている懸念におそわれている。
・しかし、こういうのを気にすべきなのは日常あるいは個人レベルであり、人から預かったお金を最大限守る(増やす)ビジネスにおいては、知識でも知性でも使えるものはフル活用するのが必要な態度だと思っている
・あと、知識か知性化という枠組みの外にも、大事なものはたくさんある。誠意、共感、愛情、信頼、勇気等々。知性があれば何でもオッケーという含意はまったくない。



◎ MBAと知性

・少なくともアメリカのMBAでは、知識そのものよりも、知識をどのように使うかという応用部分に相当程度の重点がおかれている。そのスタンス自体は自分は好きだ。
・でも、ちょっと思うのは、(少なくとも当校の)応用力重視スタイルという授業、少なからず「知識の使い方を練習させることで、情報の取扱方を『知識』として叩き込む」と言う性格を帯びていて、「知性を鍛えることで応用力を芯から鍛える」ってのとはまたちょっと違うのかなと感じている。
・正直、一部のMBA有名人の発言を見ていると、知性を感じる人と知性を感じない人に結構分かれていて、知性の有無を決めるのはむしろMBA以前の日本での教育やキャリア初期なのかなという感触をもっている。
・まあそもそも、外国語たる英語で知識を得るのも難しいのに、知性まで獲得できるかというと、かなり怪しいところはある。授業や経験を様々な形で消化する作業でもしない限り、知識は得られても知性レベルに昇華させることは困難だと思う。
・他方確実に言えることは、知識量は確実に激増したことだ。なので、上述の通り、自分のロジックが知識偏重・知性軽視のスタイルに傾くリスクがある。相手が知らなそうなことをひけらかすことで何となくすごい雰囲気だけ醸し出すと言うスタイル。これは、いいか悪いかというかむしろ自分の美学として、出来る限り回避したいと思っているのだがMBAを取ったことでついついやってしまいそうという懸念。
※繰り返すが、知識/知性という枠組みを離れたところで、留学により得られるものはたくさんある。友情、国際感覚、等々。ただ、教育スタイルや自分自身の語学力を踏まえると、知性獲得はやや難しく知識習得に偏重するリスクは小さくないと思う


◎日本の教育に対する仮説

・自分は日本の高校や大学の教育は、知性を鍛えるという点において実はけっこう優れているのではないかという仮説を持っている。
・根拠は、「正規分布が何かはどうでもいいから、とりあえずこれがどう使えるか見てみましょう」的アメリカ教育と「正規分布が何か、今日は一日じっくり考えてみましょう」という日本教育の両方を経験したこと。もちろんビジネス・実用性と言う意味で前者のアメリカ的教育が効率的なのはわかるが、知性の鍛練という意味では、もしかすると後者の日本式教育の方がよくね?と感じている。
・なので、仮に自分が大学合格当初の自分にアドバイスできるとしたら、「経済学でもなんでもいいけど、知識はある意味どうでもいいっちゅうか仕事とかMBAとかでカバーできるので、しっかりした本や講義に触れて頭をいじめまくって地力を高めろ」みたいなことを言いたいなと思う