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Friday, June 8, 2012

ワラントの転換価格

先日の野村HDの株主総会で出ていた株主提案がぶっ飛んでいたのは各所で話題になっていたが、自分はそのうちのひとつの提案について、思わずうーんと唸らされてしまった:

(第8号議案)ストックオプション廃止について

快楽とはなんであろうか?
辛うじて100円以上の交換価値を持つ債権を1円で受け取ることではないか。
貴社は役員報酬の一部として新株を1円で買い取る権利を付与する制度を実施し続けているが、
この制度は貴社の株価を1円に近づける効果しかないので即刻廃止すべきである。役員は自分が
勝った新株が売却できるまで株価上昇を望まない。「株主とリスクを共有する」のであれば「一株を
5000円で買い取る義務を付与する」べきであろう。


正直なところ、自分は、「これ、この人の日本語がおかしいから却下されちゃってるけど、実際問題真剣に論じる価値のあるわりと重要な問題じゃないかしら?」と感じている。


■ 論点1 ストックオプションと生株支給のペイオフ
・ペイオフ上の違いは、ストックオプションなら転換価格以下のときのペイオフはゼロだけど生株のときはマイナスになりうるという点。
→しかし、この点においては、経営者は株主とよりリンクしたモチベーションを持つことが望ましいので、生株の「マイナスもありうる」ペイオフの方が望ましいようにも自分には思われる。

■ 論点2 ストックオプションと生株の一株当たり単価
・仮に現在の株価が100円であったとする。で、社長に100万円相当の株式を支給したいとする。このとき社長が受け取るのは100万円÷100円=1万株。
・ここで、生株の代わりにストックオプションを付与するとする。ストックオプションの価格は、転換価格の設定次第で大きく変化する。例えば、リスクフリーレート2%(単利、連続複利化前)、ボラ30%、満期10年というスペックを想定すると、自分の手持ちの「ブラックショールズ試算君.xlsx」によれば、
(1) 転換価格が1円のとき(ITM)、オプション価格が99.09円なので、100万円で10,091個のオプションが付与される
(2) 転換価格が100円のとき(ATM)、オプションは39.66円で、100万円で25,215個のオプションが付与される
(3) 転換価格が500円のとき(OTM)、オプションは4.41円で、100万円で227,004個のオプションが付与される

つまり、現状のような1円ストックオプションであれば、生株1万株に対してストックオプションも10,091個と、経営者に支給される株数は殆ど変わらない。他方、アウトオブザマネーになるようなストックオプションを支給すれば、生株1万株に対してストックオプションは227,004個も支給されることになる。

→経営者により株主とリンクした動機を持たせたいのであれば、1万株あげるよりも、アウトオブザマネーのオプションをあげることで22万株相当のオプションを支給した方が、株価を上げるモチベーションは高まるように思われる(1万株より22万株の方が多いという意味において)。他方、インザマネーであれば生株支給数とオプション支給個数は殆ど変わらないので、わざわざ生株ではなくオプションにする意味があまりないのではないかと

→もちろん、インザマネーにすることで、起こりうる希薄化の度合いは低下するっちゃするけど。

■ 論点3 OTMのオプションとITMのオプションのペイオフ

・現状の株価が100円で転換価格が1円というITMのとき、経営者の現状周辺のペイオフは45度線となる。株価が90になっても110に増えても、ペイオフはその分だけ増減する。
・現状の株価が100円で転換価格が500円というOTMのとき、経営者のペイオフは直線(いずれにせよゼロ)で、無茶苦茶頑張って株価を500円以上にしたときだけプラスとなる。逆に、株価が下がっても経営者のペイオフは減少しいない。

→OTMのストックオプションを支給すると、経営者は「ミスっても失うものがないが、成功したら儲かる」という非対称的なインセンティブを持つことになり、過度のリスクテイキングを誘発する懸念がある、とも言える。

→仮にOTMストックオプションが持つ過度のリスクテイキングは嫌だということであれば、代替案はITMオプションに限らず生株でも良い気がするのだが。。というかITMオプションって殆ど生株と変わらないような。


■ 論点4 プロスペクト理論

・プロスペクト理論によれば、人は勝ち分については保守的に考えがちで、損失については積極的に考える傾向がある

→得しかないストックオプションを付与しても(特にITMのオプションを付与しても)経営者は利益確定行動というか、利益追求の手綱を緩めてしまいはしないだろうか
→生株であれば損の状態が生じえて、その際は経営者はきっちりリスクテイクしてくれるのではないか

※ただし、個人の行動に関するこのプロスペクト理論が、Fiduciary Dutyのもと合理的に活動すると思われる経営者の行動にも影響するかどうかは不明。まあ影響しそうな気はするけど


■ 論点5 設計・管理上の論点

→オプションは計算が難しいし、恣意性が排除できない(シグマの置き方とか)一方で、生株は時価を見るだけなので客観性についても計算難易度についても完璧


◎結論

・現状のようなITMのストックオプションを付与することは、自分は最良のプラントは思えない。生株と殆どペイオフが変わらないくせにダウンサイドがなかったり計算がややこしかったりするばかりなので。

・なので、生株を支給するかOTMのオプションを支給するかの2択で、そこからは株主の好みで決めればいいのではないかと思う。OTMオプションにすれば生株よりたくさんの株を(潜在的に)経営者に付与することになり、かつペイオフダイヤグラム上経営者はガンガンリスクテイクしてくれる。生株であればその辺経営者はストレートにやってくれるように思われる。どっちがいいかは株主の好み次第

・上記提案については、「5,000円の生株」というのを「500円のストックオプション」にすれば、経営者も真剣に回答を検討せざるを得ず、わりと有益な議論が得られたかもしれないと思う



■ 番外 ストックオプションとワラントの比較
・ストックオプション:発行体が当該企業とは限らない。投資家同士が相対で取引できる、いわゆる普通のオプション。多くの場合市場性確保のためにスペックが標準化されている

・ワラント:オプションという点においてはストックオプションと同じ。企業が発行して投資家あるいは経営者などに売ったり授与したりするもの。市場性が求められていないのでスペックは任意に設定される

・あるいは、オプション単品の場合はストックオプション、社債にビルトインされたりする場合はワラントと言われたりするようにも思われる


■ 番外2 経営者ではなく従業員に生株あるいはストックオプションを付与することについて

→従業員一人一人の貢献度と企業価値の連動度が比較的高いスタートアップなら合理性はあるが、大企業においては従業員一人が株価に与えられるインパクトなど高が知れており、従業員にとって不必要なリスクを取らされているようにしか思えない。従業員が欲しければもらった給料の中から勝手に自社株買いをすればいいだけで、株式で支給することは企業にとってはメリットがあっても従業員にとってはあまりメリットがないと思う

■Further Reading
・起業のファイナンス(リンク)

Tuesday, May 22, 2012

住宅と税務

アメリカの不動産(おもに住宅)に関する税務の話のメモ

1. あなたは誰

・あなたが住宅の利用者の場合と、住宅投資家の場合と、住宅ディーラーの場合で、同じ不動産でも税務ルールは異なる
・利用者の場合、各種例外を無視して原則論だけ言うと、(1) 売却益も売却損も税務上無関係(課税も控除もされない)、(2) ローンの契約手数料および金利と固定資産税は控除可能 (3) 減価償却を認識することはできない
・ディーラーの場合、(1) 売却益はキャピタルゲインではなく一般所得税で課税される、(2) 減価償却を認識することはできない
・投資家の場合、色々あるので下記に続く

2. 投資家にとっての税務

・課税基礎(Tax Basis):建物は減価償却を認識できるが、土地は減価しないので、取得価額を概念上土地と建物に分ける必要がある。そのために、契約時点で両者を分別したり、鑑定士に計算してもらったりする。

・Adjusted Basis:課税基礎から、建物分の減価償却累計額を引いたもの。建物の減価償却は、税務上耐用年数27.5年で計算される。減価償却は月割りで計算される。取得や売却が月中に行われた場合、その月は半月(1/2か月)で計算する。

・売却時の課税:課税対象は(売却価額-Adjusted Basis)=(売却価額-取得価額)+(取得価額-Adjusted Basis)=キャピタルゲイン+減価償却累計額。キャピタルゲインについては、優遇税率15%が適用されるが、減価償却累計額についてはUnrecaptured Depreciationと呼ばれ、既に減価償却費計上時点で税務上の優遇を受けているのでここでは優遇されず、25%の税率が適用される。

(例)$400,000で買った住宅を、10年後に$600,000で売ったときの課税額は?なお、取得価額のうち$100,000が土地取得費用であったとする。

(解)
・建物の取得価額:$400K - $100K = $300K
・年間減価償却額:$300K / 27.5 = $10,909
・10年間での累計償却額:$10,909 x 10 = $109,091
・10年後の調整後課税ベース:$400,000 - $109,091 = $290,909

売却時
・キャピタルゲイン:$600K - $400K = $200K
・キャピタルゲインに対する課税:$200K x 15% = $30,000
・Unrecaptured Depreciation = 償却累計額 = $109,091
・Unrecaptured Depreciationに対する課税:$109,091 x 25% = $27,272
・合計課税額:$30,000 + $27,272 = $57,272
(トータルのもうけ=Realized gain = $200K + $109,091 = $309,091)


3.Passive Income:不労所得??

・アメリカ税法では、所得は給与所得等のActive Incomeと不動産投資収入のようなPassive Incomeに分類される
・一般的に、Active IncomeとPassive Lossを合算して相殺することはできない。たとえば、保有不動産からの純所得がマイナス$50,000で給与が$100,000であったとき、課税ベースは給与所得の$100,000. 不動産の損金$50,000で給与所得を控除することはできず、不動産で来年以降所得ができたときまで不動産での損金$50,000は控除に使うことができない。
・ただし、例外もあり、たとえばあなたが不動産経営にアクティブに関与しているとみなされれば、不動産の損金を他のActive Incomeと合算することが許される。不動産投資家、すなわちアクティブ投資家であるわれらが不動産の教授は、結婚したらなんとびっくり奥さんに多額の不動産関連累損があることがわかった。奥さんは不動産投資にアクティブに関与していなかったので損金を使えず困っていたが、アクティブ投資家である教授と結婚した結果、彼らの資産が合算され、無事に教授が奥さんの累損を使ってガツンと税金圧縮に成功したそうで。。


4. 不動産の「交換」:Section 1031 Exchange

・セクション1031の要件を満たすような形で不動産と不動産の交換を行った場合、課税ベースは新しい不動産の取得時点の価値ではなく、もともとの不動産のままキープできる

(例)
・トムは2000年に住宅を$100,000で購入した
・2005年時点で、減価償却を調整した課税ベースが$90,000だったとする
・2005年に、ジェリーと不動産の交換手続きを行った。
・ジェリーの不動産の市場価値は$150,000で、トムは自分の不動産に加えて現金を$30,000支払った

このとき
・交換とみなされなければ、新しく取得した不動産に関するトムの課税ベースは$150K。また、不動産を手放しても結局1ドルも受け取っていないが、Unrecaptured Depreciation分の$10Kは課税対象になる。
・交換とみなしてもらうと、トムの課税ベースはもともとの課税ベース+支払った現金=$90K+$30K=$120K。この場合は課税ベースがキャリーオーバーされるので取引によって課税は発生しない。


・この例のように、交換とみなすことで、課税ベースを抑えることができる可能性がある。

Friday, May 11, 2012

ネゴシエーション まとめ

0. 交渉準備

 ・そもそも、交渉してよいのか
 ・己と敵を知る
 ・ゲーム理論的発想
 ・BATNAを探す

■ そもそも、交渉していいのか

 ・交渉することで、相手が心証を損ねるリスク
 ・「そういうのは会社でやれ。家に持ち込むな」

■ 己を知り、敵を知る

 ・ 自分の目的は何か?何が最重要で、何は妥協可能か?
 ・交渉相手の目的は?

■ 交渉相手は友人ではない

 ・ 商談相手も、社内調整の相手も
 ・ 自分の利益を追求することは恥でもなんでもない。相互に自分の利益を追求した結果衝突は起きるが、それは必要なコストであり、回避するともっと厄介なことになると心得る
 ・変に遠慮してしまう方が、仕事のパートナーとしては悪印象を与えかねない。自己あるいは勤務先のために全力を尽くせない人が、一緒に組んだ時にいい仕事をしてくれるだろうか
 ・ドライにすることと、信頼関係を保つことは両立可能。妥協しないと保てない良好な関係って何?

■ ゲーム理論的発想=ナッシュ均衡

 ・ナッシュ均衡:相手がXという行動をとると仮定したら、自分ができるベストの対応は何か?
 ・数手先を読む:相手X→それに対して自分Y→相手もYに対応してZ→... 現実的には、1回か2回ほど繰り返せば十分で、繰り返し過ぎても逆効果

■ BATNA:「じゃあいいよ、●●するから」という代替案

 ・代替案があれば、「じゃあいいよ、●●するから」とできる
 ・BATNAがベターであればあるほど、不必要に妥協する必要が減るので交渉力は増す
 (例:他社からもオファーが来ているのであれば、あなたは勤務先との年俸交渉でより強気になれる)


1. 戦略レベル

■ ポーターの5 Forceとか
 ・ 買い手が自分一人で売り手が複数いたりした日には自分の交渉力は強まる。相手が談合しない限りにおいて、極限まで買いたたける(極限=いずれかのBATNAの高い方マイナス1円)例:東大理Iクラスの女子
 ・売り手が自分一人で買い手が複数いるときも同様、極限まで値段を吊り上げられる(極限=いずれかのBATNAの低い方+1円)例:車の売却
・言い換えると、(1) 他の競合が来る前に勝負を決めろ (2) 違法出ない限りにおいて談合余地を検討してもいいかもしれない。

■ パイを広げる

 ・交渉はパイの奪い合い、これは不可避
 ・しかし、何らかの協調により、パイの大きさを拡大することはできるかもしれない
 ・パイの奪い合いはガンガンやるべきだが、その前に、パイの大きさを最大化すべく協調できると両者得する

■ 複数論点をつくる

 ・パイ拡大の一策。複数論点があれば、バーター余地が生まれる
 ・一見論点は一つしかないように見えても、複数の論点が隠れていることも。隠れている論点を掘り起しバーターに持ち込む発想

■ 見解の相違は活用できる

 ・「まずは前提条件に関する相違をなくすべく交渉」みたいなことは不要
 ・見解の相違があるときは、同じ条件が自分にとっても相手にとっても+ということがありうる
 ・見解の相違を活用するためには、見解の相違を相互理解するための信頼感形成が重要

■ 情報共有と信頼

 ・情報があればあるほど有利なので、不必要に相手に情報を渡さない。相手は友人ではない
 ・他方、情報を共有することで双方が得することがある
 ・信頼関係をベースに、ひとつ与えてひとつ取ると言う形で情報共有を進めることができると良い
 ・信頼関係を築いてパイの大きさを最大化できれば、その後のパイの奪い合いが50:50にならなかったとしても両者ある程度満足できて、良き対戦相手に対する尊敬のような関係を築きうる



2. 戦術レベル

■ アンカリング(Anchoring、錨をおろす)

 ・自分が相手に「年俸は1,000万円でどうですか」と言ってしまえば、相手はゼロベースで考えることができなくなり、1,000万円が良いか悪いか、1,000万円からどのくらい価格を上げられるかという発想に陥りがちになる
 ・逆に、相手に何か最初の提示をされたとき、相手はアンカリング目的でふっかけてきている可能性があることに注意
 ・対策:相手の提示を半分無視して、自分からも提示してしまう
相手「年俸は1,000万円でどうですか」
(NG)自分「1,000万円は低い。もう少し上げてください」
(OK)自分「いえ、5,000万円でどうでしょう」


■ サンクコスト・サンクベネフィットをかきまぜる(BATNA応用)

 ・理論的には、交渉の余地があるのは、サンク部分を除いた部分に限られる。たとえば、既にCさんから「2,000万円で買います」というオファーを貰っているときに、Bさんと土地売却交渉をしたとする。このとき、仮に売却価格が3,000万円となれば、自分がBさんに売ることによって得られる追加的な利得は1,000万円であり、3,000万円ではない。2,000万円はBさんに売らなくても得られたものであり、サンク。
・この2,000万円をサンクと考えれば自分のBATNAは2,000万円となるので、仮にBさんと利得を公平にシェアするのであれば、落としどころはAvg(2,000万円、BさんのBATNA)となる。たとえばBさんのBATNAが4,000万円であれば、落としどころは3,000万円となる
・しかし、Bさんが「2,000万円がサンク?んなことあるか。お前は俺が払った分全額得するのであって、俺が払った金額マイナス2,000万円なんて知らない。なので、公平な中間地点は、3,000万円ではなく、Avg(0, 4,000万円)の2,000万円だ」と言ってきたとき、あなたはちゃんと反論できるだろうか?
・相手が2,000万円より低い金額を言って来たら断ることは簡単だが、2,000万円がサンクベネフィットで、中間値計算にあたっては考慮すべきではないとロジカルに説明しきるのは案外難しい。
・ディフェンスの観点からは、サンクベネフィットがサンクであることを説明できるようにしておく必要がある。
・オフェンスの観点からは、「まあサンクだよね」と知りつつも、一応「おい、サンクなんて知らんぞ」ということで、中間地点の落としどころを自分に有利な方向に調整できる望みがある。

■Further Reading
ハーバード流交渉術(リンク)

Thursday, May 10, 2012

ネゴシエーション(8) 見解相違はチャンス

■ 実戦メモ4

(ルール)
・エネルギー節約につながる機械を製鉄会社に売りたい自分と、それを買いたい製鉄会社のネゴシエーション。

・自分と相手は異なる指示が与えられており、相手がどんな情報を持っているのかわからない。

・価格のみならず、販売条件を自由に決めてよい。

・売り手たる自分の得点は期待値で計算される。指示書によると、機械がうまく作動する確率が80%とあったので、期待値は 80%×うまくいったときのペイオフ+20%×故障したときのペイオフ というもの。

・自分の自己資本は$15M。それを超えるような何かは起きてはならない。


(事前準備)
・手持ちの情報から推測した限りでは、エネルギー節約によるメリットはトータルで$20Mであった。

・なので、自分の取り分が$10Mになるくらいのプライシングが落としどころと考え、それを実現するような売値を考えて臨んだ。


(本番)
・開始直後は、お互い、情報の出し惜しみ。もごもご、ごにょごにょ、できるだけ自分の手持ちの情報をさらさないようにしつつ相手の情報を探る展開。

・といいつつも、気の知れた同じ学校の友人であり、最終的にはひとつひとつ情報の共有が進む。敵対関係にある相手とのネゴだとこうはいかなかったかも。

・やがて、機械がちゃんと動作する確率についての認識が、自分と相手で見解の相違があることに気が付いた。自分にとっての成功率は80%なのだが、どうも相手の認識する成功率は低く、50%以下であるとのこと。
すなわち、期待値計算が非対称であることがわかった。仮に相手にとっての機械の成功率を30%としたら、

自分の期待値:80%×成功時のペイオフ+20%×失敗時のペイオフ。
→成功時いくらもらえるかが重要で、失敗時いくら損するかは比較的どうでもよい

相手の期待値:30%×成功時ペイオフ+70%×失敗時ペイオフ。
→自分の逆で、成功時製鉄所がメーカーにいくら支払うかは、比較的重要でない

・この情報共有ができたことから、以下のような提案を行った。
「俺は成功時いくらもらえるかが重要で、お前は失敗時いくら賠償金を取れるかが重要だ。なので、こうしよう。もし失敗したら、倒産寸前になる$15M払ってやるから、その代り成功したらガツンと$19よこせ」
$19というのは、自分が失敗時に$15払ってもなお、期待利得が落としどころである$10になるような金額として指定した。

・最後相手が粘ったので自分の成功時の取り分を$19から$18.5に削減したが、結局合意達成。


(結果)

・このゲームでは双方が認識する故障率に相違があることから、「成功したら多く払い、失敗したら多く賠償する」という支払い方式にすることで、両者の利得の合計は増やすことができるプラスサムのゲームであった。たとえば、「成功したら$5Mもらえるが、失敗したら$2M賠償」というのより、「成功したら$18.5Mもらえるが、失敗したら$15M賠償」というスキームの方が両者の合計利得が大きくなる。自分達はこの「パイを最大化する」という作業に成功していたことになる。自分の支払額を倒産ギリギリの$15とすることで、パイの大きさは最大化され、あとはそれをどう配分するかという問題だけが残る。

・我々の18.5vs15という配分は、クラス平均と比較するとかなり自分に有利であったようで、結果として自分は機械の売り手の中ではクラス2位の好成績を収めることができた。

・だが、割を食った相方も、パイ自体が大きいおかげで、まあまあ平均より上のスコアを獲得していた



■ 異なる価値観はwin-winのチャンス

今回のゲームの肝は、お互いの利得関数が非対称であるということであった。

対称な例を挙げると、土地の販売交渉とかが挙げられて、
売り手の利得:売値
買い手の利得:買値
といった感じで、これは完全にゼロサムゲームで、妥協はありえても双方が100%納得する落としどころは存在しない。パイの大きさは変わらない。

他方、今回のように
売り手の利得:80%×成功時売値(A)+20%×失敗時賠償(B)
買い手の利得:30%×A+70%×B
のような感じになると、両者の合計は
合計利得:110%×A+90%×Bとなる。すなわち、AとBを両建てで増やすことで、パイの大きさを大きくすることができるのだ。

これまでの授業でも何回か出てきたが、ネゴシエーションの肝のひとつは
パイの奪い合いをする前に、まずパイの大きさを大きくできないか考えるとよい
というものであったので、今回は我々のチームはまさにそれができたことになる。(その後のパイの奪い合いで、なんとなく自分がたくさん奪ってしまった形になったが)

現実にも、ひとつのモノを巡って争っていたとしても、両者でその効用関数が微妙に異なることは少なくない。具体的には、

・成功確率:ゴルゴ13は自身の成功確率を高いと思っているので(99.99%)、成功したときにはたくさん報酬が欲しいが失敗したときは割とどうでもいい。他方、クライアントたるCIAは、そこまでゴルゴ13の狙撃成功率を高いと思っていないので(たとえば90%とか)、失敗したときの支払についてもそれなりに関心がある。こんなときは、「成功しようがしまいが$200,000で」と言う風に契約するよりも、成功したらいくら、失敗したらいくらというような報酬契約にすれば、両者ともにハッピーになる可能性が高まる。

・モノの価格予想:アラブの原油王は、将来原油価格が上昇すると信じていて、買い手の商社は将来原油価格が下落すると予想している。そんなときは、1年後のフォワード契約を「1バレルいくら」という固定価格で決めてしまうより、「1年後の原油価格×0.45」といった感じで、見解が異なるポイントである将来の原油価格に連動するような条件を設定してやるとよい。そうすれば、アラブ側は「売値が上がるわい」といい気持ちになるし、商社も「将来安く買えそう」と嬉しい。

まとめると、

・成功確率や物価など、変動しうるファクターについて見解の不一致がある場合は、

・それを交渉により統一するのではなく、

・見解が一致していないファクターに連動するような条件付けをしてやることでパイの大きさが拡大するのでwin-win

・パイの奪い合いは不可避だが、パイを大きくしてからでも遅くはない


・で、このような条件付けのためには、「あ、ここに見解不一致がある」ということを両者が理解しなければならないので、信頼関係に基づいて両者が適切に情報共有できる必要がある。信頼関係の構築が、パイの大きさを拡大するのだ。

Saturday, May 5, 2012

借金の算数(3)

■ 契約手数料や解約ペナルティがあるときの実質利率って?

同じ金利4%のローンでも、契約手数料2%を取るようなローンと、契約手数料がないローンではその負担が異なる。この負担の違いは、実効金利というものを使うことで数字に落とすことができる。

例えば、5年後に解約を検討しているときに

ローンA: 元本3千万円、金利3%、20年、毎月元利均等払、契約手数料も解約手数料もゼロ

ローンB:元本3千万円、金利2.75%、20年、毎月元利均等払い、契約手数料1.5%、解約手数料2%

の二つを提示されたとき、どうやってどっちのローンがマシなのか検討すればよいのだろうか。

<考え方>

・実効金利とは、契約手数料や解約手数料を考慮した上で計算されるローンの利回りで、RATE関数で計算される。RATE関数には、元本、解約時残高、支払回数、毎回の元利返済額を入れる。

・たとえば、RATE関数にもともとの元本と5年後の元本(解約時元本)を入れると、契約金利が出てくる。

・ここで、RATE関数に、元本の代わりに元本-契約手数料を、解約時残高の代わりに解約時残高+解約手数料を入れると、これら手数料を考慮した上での実行利率が出てくる。

・計算したのが下記のテーブル。これによると、ローンBの方が金利は低いものの、手数料があるせいで実効金利が高くなっていることが示されている。

・こういった手数料が入ると、実際の負担額は当たり前だが金利が示す金額より増加する。なので、銀行担当者に実効金利の計算を依頼したり最寄のFPなどに頼んだり、あるいは自分で計算して、ちゃんと実効金利を見てからはじめてローンAかローンBか選んだ方がよい。

・また、場合によっては、手数料を多く払えば金利を下げてもらえたり、その逆にすることができたりと、借り手にとっては手数料の存在は交渉余地の存在に他ならない。条件が金利しかなければ交渉余地は小さいが、手数料が入っている場合はチャンスと思い積極的に交渉するのが良いと思う


ローン1
元本 30,000,000
契約手数料 0% 0
元本-手数料 30,000,000
契約金利 3.00%
契約年数 20
毎月元利返済額 166,379 (*1)
解約年 5
解約時残高 24,092,630 (*2)
解約手数料 2% 481,853
解約時支払総額 24,574,483 
実効利率 3.33% (*3)
ローン2
元本 30,000,000
契約手数料 1.5% 450,000
元本-手数料 29,550,000
契約金利 2.75%
契約年数 20
毎月元利返済額
162,650 (*1) 
解約年 5
解約時残高 23,967,684 (*2)
解約手数料 2% 479,354
解約時支払総額 24,447,038
実効利率 3.43% (*3)
*1 PMT( 金利÷12, 年数×12, -元本)
*2 FV( 金利/12, 解約年*12, 毎月返済額, -元本)
*3 RATE(解約年*12, 金利/12, 月返済額, 元本-手数料, 解約時支払総額)


Friday, May 4, 2012

持家vs賃貸 (2)

先日授業で持家と賃貸の経済性について比較するケースを取り扱って以来色々と考えてきたことの整理

● はじめに(Disclaimer)・・・経済性が全てではない

以下では、「アメリカはともかく、日本に限定して言えば、おそらく経済性の観点では賃貸の方が有利だと思う」という議論を展開する。しかし、自分は「経済性がすべての判断の最大かつ唯一の判断根拠となるべきである」と言っているわけではなく、単に「他の要素を一切無視して、経済性だけ見たとすれば、たぶん賃貸の方が有利」と言っているだけで、「他の要素を考慮するあなたは間違っている」と糾弾しているわけでは全くない。

家を所有する喜び、大きな買い物をするということ自体の喜び、自分の好きなようにカスタマイズできる便利さ、etc。こういったものは間違いなく持家購入に人を誘導する重要なファクターであり、できることならこういった要素も数字で考慮できたらどんなに良いことかと思う。しかし、ここでは、こういったものは「とりあえず」無視して、経済性にフォーカスして議論を進める。

なので自分の立場を言い換えると、「いろいろな要素があるのは承知しているつもりなので、自分としてはとりあえず経済性についてだけ論じてみると、おそらく賃貸の方が有利」という立場である。

また、後述するが、自分が今住むLAは、日本と比べると持家有利・賃貸不利の土地である。なので、自分は無意識のうちにLAと比較することで日本の賃貸が有利であると感じている可能性があり、それが記述に偏向をもたらしている可能性があるがそのときはごめんなさい。




●ざっくり考えるなら・・・月間費用モデル(真の持家コスト=ローン返済額+10万~15万円)

・まず賃貸では、毎月発生する費用は基本的に家賃だけ。共益費とかの名目でいくらか追加的に取られることもあるが、ここではそういったものを全て家賃にひっくるめて考える。そうすると、月の負担額は

負担額 = 家賃

となる。

・次に持家の場合、

毎月支払があるもの(実際にお金が出ていく)は、
①住宅ローン返済(元本・金利)
②保険料
③固定資産税が挙げられる。
また、定期的に発生するわけではないが、④修繕費も毎年結構な金額発生するはずだ。

まずこの時点で言えることは、「住宅ローンの返済額の方が家賃より安いので、持家の方が有利」という話は正確ではないということだ。②③④を考慮していないからである。

また、持家の場合、売却損が発生することは忘れてはならないと思う。たとえば4,000万円で買った一戸建てが20年後に売却したときに1,600万円にまで価値が下がっていたときには、売却損は(4,000-1,600)=2,400万円となる。トータル6割減だが、20年で上物の価値がゼロになってしまうという日本の相場観に照らせば、この6割減の例はさほど極端な例ではないと思う(※土地は減価しないので)。売却時までこの費用は顕在化しないので軽視されがちと思うが、これを「2,400万円の売却損を、毎月少しずつ負担する」というように考えてみるとそのインパクトがわかる。

トータルの売却損・・・2,400万円(20年)
居住月数・・・20年×12=240か月
一か月あたり売却損・・・10万円

一般化するなら、一カ月当たり売却損は
(売却損)/居住月数
となる。


つまり、2,400万円の売却損というのは毎月10万円の負担に等しい。この2,400万円の売却損は売却するその瞬間まで顕在化しないので軽視されがちだが、持家に住むということは、上記①~④の「実際に毎月支払うコスト」に加えて「支払は売却時まで先延ばしにしている、月10万円の隠れコスト」も同時に負担するということになるのだ。

なので、家賃と比較すべき、持家の毎月の負担額は
①住宅ローン+②保険料+③固定資産税+④修繕費+⑤売却損の月割り
という①~⑤の合計金額だ。自分は経験上家賃と①だけを比較して持家有利という結論を出している人を多く見てきたが、それは正しくない。

今住宅ローンの返済額が15万円であるならば、そのほかの②~⑤も含めた総額は、おそらく25万円~30万円となろう。自分の感覚では、持家に毎月25万円投じるなら、月20万円の借家に住みつつ毎月5万円貯金するのも悪くないと思う。毎月5万円の貯金=20年で1,200万円。老後に1,200万円余分に資産があるというのはかなり嬉しい。

また、「売却代金で住宅ローンが返せれば、それで問題ない」というが、それは資金繰り上追加でお金をかき集める必要がなくて良かったというだけで、損していないという意味ではない。仮に売却価額がローン残高を上回っていたとしても、売却損が出たのであればそれは厳然とした損失である。

※なお、アメリカでは、住宅価格の割に家賃が高いことと、売却価格があまり下がらず売却損が比較的少額で済むことから、住宅保有はわりと良い投資と認知されている。これは、住宅価格の割に家賃が低く、多額の売却損を覚悟せざるを得ない日本の事情と異なっている。日本と似たような環境の台湾出身の友人は、親が台湾の投資用住宅を売って、その金でLAに投資用住宅を買おうかとしているらしい。おなじ40万ドルでも得られる家賃が格段にLAの方が高いそうで、こちらの方がよほど投資になるとのことであった...

※上記の通り、持家の最大のコストの一つは売却損なので、売却せず死ぬまで住み倒すことで売却損を永遠に先延ばしにするという技(?)もある。もし死ぬまで住むのであれば、どんな計算をしても持家の方が圧倒的に有利になる。なぜなら繰り返しになるが売却損がとても大きいので。なので、確信をもって住む変えることなくひとつの家に住み続けると言えるのであれば、たぶん文句なしで持家にしてしまってよいと思われる。(ただし、長く住むことで発生する修繕費はあまり見ていない...)


● きっちり考えるなら・・・通年モデル

厳密に賃貸と持家の経済性を比較したいのであれば、できればエクセルを用意して、取得時から処分時(あるいは永住予定であれば、予想される死亡までの年数)までの表を作ってみるべきであろう。毎年のコストを列挙して、最終的にはそれを合算する。NPVを計算するか否かだが、将来の費用を軽視しないためにも敢えて割り引かない方が保守的で望ましいのではないかと自分は感じている。

これを作ると、たとえば「4,000万円の家に20年住んだ後1,600万円で売却した場合の総費用があれば、その20年間、家賃いくらの家を借りることができるだろうか」という検討ができる(ローンの頭金や金利・修繕費や固定資産税について丁寧に設定する必要があるが)。自分の試算によれば、4,000万円の家に20年住むだけのお金があれば、家賃20万円~22万円の家を借りることができる。あるいは、最初10年18万円の賃貸で我慢できれば、後半10年は25万円の家を借りることができる。

また、モデルを作れば、ローン期間を延ばせば伸ばすほど月々の負担は低減するがトータルの利払いが増加することなども目で確認できるようになる。20年ローンと35年ローンでは金利負担がとんでもなく異なるのだが、20年ローンにすると月々の返済額が多額になり家計が回らない...みたいなところのシミュレーションができる。






● 最後に・・・その上で、経済性以外の論点もできるだけ考える

価値観は人それぞれ。経済性以外にも無数に存在する家を買う理由あるいは家を借りる理由も、しっかり検討した方が良いだろう。経済性だけで判断を下すのも、あまりに人間味がない行動ではないか。

※個人的には、賃貸に下記のような「数字では表せないメリット」があると感じている。

・売却損を気にする必要がないので、不動産市況にあまり惑わされない。他のこと(仕事や趣味)に集中できる。
・家族のライフステージに柔軟に対応できる。子供が増えたら広い郊外の家、子供が独立したら狭い都心、etc。
・地方や海外への転勤転職にも柔軟に対応できる。
・子供の教育環境にも対応できる。優秀な学区云々、通学先の近隣、etc。
・万一所得が減少したときには、翌月からでも家のグレードを落とすことで費用圧縮ができる。
・今後日本経済が緩やかに縮小基調に向かうと考えれば、当然、家の需要も低下し、価格も下落する(金融政策次第だが..)

このように賃貸にはいくつかの定性的なメリットが存在するが、自分が市況を観察している限りでは、こういったメリットが家賃にオンされている形跡(持家価格に比べて家賃が割高になっている)は見られない。

ただ、経済性について間違った認識を持ったまま経済性以外の論点について考えるのは危険であるというのが自分の意見。

Thursday, May 3, 2012

ネゴシエーション(7) 論点を複数もつ

■ 実戦メモ(3)

3回目のネゴシエーションは、メーカーの営業部長と、スーパーの幹部が、新製品の取扱を巡り交渉するというもの。割引率、広告費の分担、棚の前列への陳列等7つの論点についてそれぞれ合意を形成するというゲーム。

「商品の陳列については自分はAだろうとBだろうとCだろうとあまり得点差はないが、相手はAだとものすごく加点がある...」という非対称性があり、うまく協調的になれれば、お互い譲るところは譲り、主張すべきところは主張することである程度win-winになれるというゲームであった。

ナパのホテルでやったこのネゴシエーション、残念ながら結果はクラス平均以下の得点となってしまった。

・「自分にとって重要な論点は主張し、そうでないところは妥協する」「複数の論点を結び付けてバーター取引する」等の基本的なアクションはできていたのだが、

・どうやら主張と妥協のバランスが悪かったようだ。見直してみると、ひとつ主張が通ったときに、嬉しさのあまり(?)2つくらいまとめて妥協してしまっているところがあり、そのためトータルで見ると妥協しすぎという形になっていた。

平均点に負けた悔しさのおかげで割と真剣に「どうして負けたのだ...」と反省したのだが、やはり色々と反省しうるとことはあって、

・できればそういうことは素面でやる

・自分は妥協しすぎ、情報出し過ぎにより損をする傾向がある。友人や家族に対して計算することなく接するときにはまだ許されるのかもしれないが、冷静に自分の利得を最大化すべきネゴシエーションにおいてはこの自分の傾向は致命的であり、常に意識し、抑制的であるべきである

・具体的には、自分の譲歩の度合いと、相手の譲歩の度合いが常にイーブンとなるよう、あるいは出し過ぎとならないよう、意識的に計算しないとならないだろう。




■ 複数論点を「つくる」


ところで教授によれば、この「論点が複数ある交渉」は、論点が一つしかない交渉と比較して合意形成がし易いという指摘があった。一つしか論点がないときはゼロサムゲームとなってしまいなかなかうまい落としどころが出てこないが、複数論点があれば「これは妥協するから、そこは俺の要求を呑んでくれ」というのがやりやすいのだ。

そんな話を聞いた丁度翌日の不動産の授業で、ゲストスピーカーとして来た人の話でまさにそんな話があった:

・ソノマで色々と不動産開発をやっていた顧客が、金策に窮してしまい、Ch11での再建を図ることになった

・が、債権者が複数いて利害が錯綜しており、下手するとCh7を申請して保有物件をたたき売る羽目になる。

・未開発の物件などもあり、現時点で叩き売るよりも開発してから売った方が明らかに良い地所とかもあるのに...

・そこで雇われたその人、債権者に話を聞いて回ると、多くの債権者が「回収金額の最大化」以外の関心をもっていることがわかった。「とにかく早く資金回収したい」とか「待っててもいいからたくさん回収したい」とか。

・そこでその人が仲介しつつ、Aさんには明日にでも資金を分配するが額面の50%、Bさんには支払いが遅くなるが残余額の全てを分配...というような感じで、全員が納得のいくような分配案の合意形成をすることができ、Ch7申請を回避できた



この話を聞いてピンときた。
「複数論点があるとネゴがやりやすい」と言う話はさらに一段階煮詰めて「ひとつしか論点がなさそうな状況でも、試行錯誤して複数の論点を作れ!!」という教訓にすることができるのだ。

・金額:多いか少ないか。

・支払時期:早いか遅いか

・支払方法:現金か掛け金か。一括か分割か。現物でもオッケーだったりしないか。

・その他諸々。

これは理屈というよりは実戦的なものであり、経験や勘が寄与するとことの大きいものであろう。相手がどのようなことにメリットを感じるか考えて、何か他のメリットを考えてあげて、それを与える代わりに自分の主張したい論点はきっちり主張させてもらうといった感じ。

これまであまり頭を整理したことがなく、「論点は少ない方がすっきりしてて良い」くらいに思っていたが、これからは意識的に論点をむしろ増やす方向でやってみることにしてみたい。

※ それにしても、履修から5週間ほどたつが、一向に夫婦喧嘩には勝てていない件。むしろ、変に習ったことを遣おうとすると「ちょこざいな屁理屈使っちゃってさぁ」とネゴシエーションテクニックを使ったことそれ自体を非難されたり。。ネゴシエーションすること自体がもたらすデメリット、ってそういや以前にブログにも書いたなぁ...

Wednesday, May 2, 2012

借金の算数(2)

■ 基本的なエクセル関数

・PMT関数:元利均等ローンの、毎回の元利合計返済額を計算する関数。

例:銀行に「1億円貸してくれ」と頼んだら、「5%、毎月払い、10年、元利均等払い」という条件を提示された。
このとき、毎月の支払額は

PMT(5%÷12, 10×12, -1億円)

で計算できる。


・PV関数:元利均等ローンで、ローン元本を計算する関数。

例:Aさんは、月々の資金繰りをベースにすると、毎月の元利払いが20万円になるようにローンを組みたいのだが、そうすると銀行は「5%、毎月払い、10年、元利均等払い」と提示してきた。このときの元本は

PV(5%÷12, 10年×12, -20万円)

で計算できる。


・FV関数:数年後の残高を計算する関数。

例:3,000万円・3%・20年・毎月払い・元利均等のローンを借りていたが、借りて10年経って、住宅を売るのでそれにあわせてローンも清算することにしたら、「清算時点での元本に対して3%の期限前返済ペナルティを頂戴します」と銀行に言われてしまった。このペナルティはいくらだろうか?

まず、元のローンの毎月の元利払いはPMT(3%/12, 20*12, -3千万円)=166,379円

で、10年目が終わった時点の残高はFV(3%/12, 5*12, 166,379円,-3千万円)=24,092,630円

で、これの3%がペナルティなので、ペナルティは24,092,630 * 3% = 772,789円。




■ Incremental Interest Rate(限界利率)

<状況>

・郊外の住宅を買うために、銀行から「3,000万円、3%(毎月払)、20年」という住宅ローンの条件提示を受けていた
・ちょうどそんなとき、高いけどとても魅力的な物件が別に見つかったことから、銀行に「やっぱり4,000万円貸してくれ」と頼んだ。
・そしたら銀行は「では、4,000万円・20年なら4%になります」と言ってきた。
・これをどう考えればよいか?

<計算>

・元のローンでは、毎月の元利払いはPMT(3%/12, 20×12, -30,000,000)=166,379円
・新しいローンは、毎月の元利払いはPMT(4%/12, 20*12, -40,000,000)=242,392円
・差額は76,013円. 年間支払額は、これに12をかけて912,156円
・追加のローンは1千万円で、この912,156円を割ると、追加分1千万円に対応する利率は9.12%.

<結論>

・新しい「4千万円・4%」のローンは、元の「3千万円・3%」のローンと「1千万円・9.12%」のローンの組み合わせ
・追加的な負担は4-3=1%ではなくて、9.12%とけっこう高い
・住宅ローンならあまり関係ないが、もし不動産投資であれば、9.12%より高いリターンを得られる自信がないのであれば元のローンで我慢すべき

Tuesday, May 1, 2012

借金の算数

不動産の授業で、ローンに関して色々と論点が出てきて色々面白い。知っていたこと、今回知ったこと、あわせてメモ

■ アモチ償還(元利均等払)の計算

元本と利息を合算した毎回の支払額が一定となるような返済スケジュールのことを元利均等払いという。イメージとしては、

・毎回返済額は10万円
・最初の方は元本が大きいので、10万円のうち殆どは金利で、元本はあまり減らない
・最後の方は元本が大きく、金利が少ない

といったもの。この一定の支払額(元本と利息を合わせてDebt Serviceと言う)Xは以下の年金公式を使って求められる。

ローン元本A = X/(1+ローン利率r) + X/(1+r)^2 + ... + X/(1+r)^T
(Tは満期までの支払回数。返済が年に一回ならT=年数だし、毎月ならT=12×年数)

その辺の教科書を読めば年金公式は載っているが、自分としては、公式ではなく計算方法を理解した方がいいと思う:

A = X/(1+r) + X/(1+r)^2 + ... + X/(1+r)^T

A/(1+r) = X/(1+r)^2 + ... + X/(1+r)^(T+1) {Aを1+rで割ったもの}

上の式から下の式を引くと、

A (1- 1/(1+r)) = X {1/(1+r) - 1/(1+r)^(T+1)}

rA = X {1 - 1/(1+r)^T}

上記の式から、Xが計算できる。


ちなみにこの計算は、ExcelではPMT関数であっという間にできて、
X=PMT(利率、支払回数、元本)で計算できる。ただし、返済インターバルが年一回ではない場合、利率は返済期間における利率に調整しないとならない。


これにより均等償還額が決まるので、あとはそれを金利と元本に分解する。

・金利=前期の元本×利率

・元本償還分=均等償還額 -金利

計算が合っていれば、元本が満期のところできっちりゼロになるはず。


なお、社債は一般的にブレット型(期限一括返済)という方式で、満期になるまで元本は一切減らず満期に元本が一括返済される。このときの計算は簡単で、

・元本返済:最後に全部、それ以外はゼロ
・金利:常に元本×利率

となる。


■ DSCR (Debt service coverage ratio)

キャッシュフローがどのくらい元利償還額(Debt Service)をカバーしているかという指標。大雑把な定義は

キャッシュフロー / 元利償還額
というもの。

仮にサラリーマンのあなたが、毎月元利合わせて12万円返済する住宅ローンを組んでいるとする。
各種必要経費を引いたあとの給料の残りが15万円であった場合、あなたのDSCRは15/12 = 1.25となる。
金融機関が個人や企業などにローンを提供するときは、多くの場合、このDSCRが判断材料に使われる。すなわち、あなたの経費控除後月収が15万円で、銀行の許容DSCRが1.25であれば、銀行は元利払いが12万円となるようなローンはOKを出すが13万円となるようなローンはNGであるといった感じ。


■ Loan Constant (Mortgage Constant)

借金で一番メジャーな指標は金利 =利払い/元本 だが、実際には金利のみならず元本も返済しないとデフォルトということになってしまうことから、利払いの代わりに元本+金利を用いて計算するのがLoan Constant.具体的には

毎回の元利償還額 / ローンの最初の元本
で計算される。

なぜ毎期減少する元本ではなく、最初の元本で計算するのかというと、初期投資に対する収益性(キャップレートやROE)と対比できるようにするため。


■ Debt Yield

負債元本とキャッシュフローを比較するもので

キャッシュフロー / 負債の最初の元本
で計算される。

こいつとLoan Constantを比べることは、DSCRを計算することとほぼ同義と言える。

また、分母を負債のみならず負債+初期投資とすれば、それはキャップレート。
あるいは、分母を初期投資だけにすれば、それはROE(厳密にはROI)。

Saturday, April 28, 2012

ネゴシエーション(6) 反省メモ1

これまでに2回行ったネゴシエーション実習の模様を、反省のため記録

1. 土地買収交渉

(ルール)
・買い手である自分は、22番地の土地を80フラン/㎡で購入した
・隣の21番地は中途半端な広さで、21番地単体で住宅建築は法律上できない。農業用に使うか、あるいは22番地の所有者である自分に売るかしかない状況。
・自分としては、せっかくなので21番地を購入して、でっかい家を建てたい

(事前分析)
・まずは自分のBATNAを検討。21番地が住宅建築できないイケてない立地である以上、22番地の取引価格である80FF/㎡を超えることはありえないはずと考え、BATNAを80FF/㎡と設定。
・次に相手のBATNAを予想。「きっと、農業用に買いたい」というオファーが出ていて、その人のオファー価格がBATNAであるのだろうと推測。その推定オファー価格を30FF/㎡と予想。
・そうすると、交渉は、30FF/㎡と80FF/㎡の間のどこか一点を選ぶという話に集約される。公平性の観点から見て、その中間点である55FF/㎡が落としどころであると考えつつ、「まずは30FF/㎡あたりからオファーして、徐々に妥協していこう」という作戦をもって臨んだ。

(いざ実戦)
・ということでまず30FF/㎡を提案。
・もうちょっとだけ上がらないかと言われたので、なんとなく「じゃあ40FFで最終ビッドだ、それ以上は譲れん」と無駄に強気に出てみたところ、相手もあっさりOKが出て交渉終了。
・終わった後聞いてみたら、ほんとに農業用として別途オファーが出ていたが、そのオファー価格は15FF/㎡であった。すなわち、落としどころは15FF/㎡と90FF/㎡の中間、52.5FF/㎡であったので、合意価格の40FF/㎡は悪くない。
・相手に聞いてみたら、相手の友人は、「農業用のオファーである15FFを超えていればそれでオッケーだと思っていた」とのことで、ぶっちゃけ自分が最初に出した30FFでも満足していたとのこと。すなわち彼は、BATNAのことを「最低限のポイント」ではなく「ここを超えていれば文句なし」と言う感じに勘違いしていたということだ。

(結果)
・クラス平均は75FF/㎡。なので、自分の40FFという購入価格は平均以上で、わりといいスコアとなった
(毎回平均±σいくつと言う形でスコアが出る)
・てか、なんで、買い手のBATNA周辺までクラス平均価格が行ってしまったのだろう。なんだか知らんけどラッキー
・自分の30という最初の提示額がアンカリング効果を発揮したということになろうか。相手はルールを周知してれば80とか逆提示することもできたはずだった。


2. 保険金示談

(ルール)
・自分は工場での事故被害者の元下請け従業員。一回裁判を起こしたがうまくいかなかったので、そのときの弁護士を訴えている。
・裁判すると、一定の確率で相手の過失が認められて、その場合にだけ賠償金をもらうことができる。また、その賠償金もいくつかのケースによって貰える金額が変化する。
・そういった裁判をするか、代わりに示談でいくらかの金銭をもらうかという状況で、先方と示談。

(事前準備)
・Decision Treeを作れとのことなので、「陪審員が自分に好意的な場合」とか「相手に過失が認められた場合」とか色々な要素を一つのツリーにまとめた
・その上で、各種パラメータを適当に置き、裁判したらもらえるだろう金額について大雑把に相場観を形成
・計算の結果、最高1,000、最悪300くらいの利得が予想されたので、「とりあえず1,200という要求で始めることでアンカリング効果を狙いつつ、最終的には600くらいを落としどころとしたい」というイメージで臨んだ。

(いざ実戦)
・まず両者にて、お互いのDecision Treeに致命的な欠陥がないか、おおむね同じものを見て交渉しているか確認。
・その後自分から1,200を提示したら、なんと相手がそれを聞きつつも無視して「私からは120を提示する」とやられた。アンカリング効果を狙ったが、これはいいカウンターだ。 うまくいけば1,200近辺での交渉に論点を限定できた(アンカリング)が、うまくいかず。
・その後は、お互い「裁判したときの賠償金」が仮定しだいで大きくぶれることを知っている、すなわち正解なんてないということを知っているので、単純に数字の言い合いになった。1,200→120→1,000→300→・・・。
・で、なんとなく590で決着。

(結果)
・クラス平均は650だったので、自分が得た賠償金590は平均からわずかにマイナス。
・振り返ると、我々の交渉で鍵となったのは、最初に適当に提示したオファー額と、そこからの妥協の刻み幅くらいのもので、賠償金の真の価値とかは完全に論点の外であった。
・企業買収の交渉なども、下手するとこうなってしまいそうだなぁと思う。企業価値など仮定や前提次第でなんとでも変わるから、結局は企業の真の価値を両者で探り出すというより、お互いがエイヤーで言ったイニシャルオファーの間のどこか程よいポイントを模索するという感じ。

Wednesday, April 25, 2012

ネゴシエーション(5) BATNA

ネゴシエーションにあたり重要な概念のひとつとされるBATNA. Best Alternative to a Negotiated Agreementの略。これは「仮にその交渉を今打ち切ったとき、あなたが持っている最高の代替案は何か」というもの。自分は「じゃあいいやオプション」と理解している。すなわち、

相手:販売価格は100万円。それ以上は下げられない。

自分:じゃあいいよ、他社が90万円で売るって言ってくれているから、他社から買うよ



という、自分の「じゃあいいやオプション」以下がBATNA。

交渉におけるBATNAの使い方のポイントは以下のようなところ:

1:交渉結果はBATNAより悪くなりようがない。BATNAよりマシでないのであれば、「じゃあいいよ」と交渉をやめてしまえばいいのだから。上の例で言えば、自分が(ブラフではなく本当に)90万円で売ってくれる相手を既に見つけているのであれば、いまの交渉相手から90万円より1円より高い値段で同じものを買う必要性はまったくない。売り手が90万円以上の値段しか言ってこないのであれば、買い手である自分は「じゃあいいよ」と言って交渉をやめてしまえばいい。

2:なので、より良いBATNAを見つけておくことこそが、交渉を有利に進めることの鍵。
目の前の交渉相手のほかに90万円でものを売ってくれる人がいる状況と、目の前の交渉相手以外にはそのモノを売ってくれる人が見つかっていない状況では、交渉の有利さは全然異なってくる。90万円で売ってくれる人がみつかっているのであれば交渉結果は90万円より悪くなりえない(悪くなるなら帰ればいい)が、後者のような状況では「じゃあいいよ」と言えないので交渉が厳しくなる。

3:お互いにBATNAがあるので、交渉の落としどころは2つのBATNAの間のどこかになる。
買い手である自分にとってのBATNAが90万円で、売り手である相手のBATNAが70万円であるとき、結局のところ交渉は「70万円と90万円の間のどこを落としどころとするか」に集約される。ちなみに、この70万円と90万円の間の領域のことをZOPA(Zone of possible agreement)という。なので、ひとつの落としどころはZOPA幅20万円を両者で折半するような、すなわち80万円を落としどころとするような感じ。すなわち、予想される落としどころは、自分のBATNAと相手のBATNAの中間地点になることが多い。


ちなみに、これに関連して行われたネゴシエーション実習では、自分の相手が
「BATNAよりちょっとでも上ならいいってことだよね」と勘違いしていたようで、自分が相手のBATNAよりちょっと高い金額で買うとオファーしたら簡単にOKが出てしまった。自分としては、自分のBATNAが80で相手の予想BATNAが20であったので、落としどころは中間の50あたりを想定していたのだが、結局50よりずいぶん低い自分の最初のオファーを相手が飲んでくれてしまったので、クラス平均と比較してもかなりいい成績を貰うことができてしまった。

Sunday, April 22, 2012

持家vs賃貸

不動産の授業にて、持ち家か賃貸のどちらを選ぶ?というケース。

ただし、よく日本で行われているような「一般論として持家か賃貸かどちらが得か?」という話ではない。取り扱ったのはマサチューセッツ州の郊外の住宅地の物件で、

・いま賃貸で住んでいるX通り12番地の家が、来月から家賃が大幅増となってしまった($3,000→$3,600)

・ふと隣の家を見ると、なんと似たような家である14番地の家が$600,000で売りに出ている

・もしかして、$3,600払って賃貸し続けるより、いっそ$600,000払って買っちゃった方が得なのではないか?検討してみようか

という一般的というよりは個別具体的なケース。で、各種条件(ローン金利、ローン期間、保険料等)が細かくケース内に指定されているので、学生のタスクは(1) 所与のデータをもとにちゃんとモデルを作って、(2) それをもとに合理的な判断を下す、と言う課題であった。

で、モデルはすごく大雑把に言うと下記のような感じになる。(1)賃貸モデルと(2)持家モデルの総コスト、あるいはNPVを比較して、コストが小さい方を選ぶのが望ましい...という感じ。
比較の際に重要となるのは、何年間住む計画であるかということ。ここの前提の置き方で、結論も大きく変わってくることが多い。


(1) 賃貸モデル

・借りるだけなので、それ以外の費用は基本的になし。
・インフレ率あるいは予想される家賃上昇率を用いて、将来の家賃はちゃんと値上げして考えること
($3,600→$3,600→$3,600...ではなく、$3,600→$3,650→$3,700...みたいな感じで)
・なので、全体的なイメージは

▼ 初期費用・撤退費用・・・ゼロ
▼ 年間の基本的な支出・・・家賃×12($3,600×12=$43,200)

となる。


(2) 持家モデル

・こちらは(i) どのくらい頭金を払いどのくらいモーゲージ(住宅ローン)を組むか、(ii) モーゲージの契約をどのようなものにするか、(iii) 処分時の処分価格はいくらになるだろうか、など多くの要素が影響するよりややこしいモデルとなる。ちゃんと作るならエクセルでやるのだが、ここではその概要を書いてみると、

▼ 初期費用・・・頭金+取得手数料(物件価格の●%)+固定資産税(物件の◎%)
▼ 処分時・・・・ローン残高(退去時に完済するという前提)+販売にあたっての不動産業者への仲介手数料+処分価格-処分価格。処分価格よりもローン残高の方が大きいなんて事態になると結構大変なことになる。

▼ 年間支出・・・税務上、控除できるものとそうでないものに分けられて、
(控除可能):ローン利息、固定資産税・・・これらは税率(35%とか)の分が還付される(Credit)。
(控除不可能):ローン元本、保険料、修繕費。ただしこれはアメリカの事例なので日本では税務ルールが異なることもある。
一般的な指標として使われるのがPITI (Principal, Interest, Taxes, and Insurance). 修繕費は日常的に発生するというよりはその時々発生する一時的なものなので除外して、それ以外の毎月一定額支払うことになる支出の総称。教授によれば、PITIは月収の28%程度に収まることが望ましいとのこと。


(3) 両者の比較

ここでは簡便化をはかりNPVではなく単純に合計金額について考えてみる。
最終的には、それぞれについてコスト総額を計算してそれを比較するのだが、そのコストは①取得時コスト+②年間定期的に発生するコスト+③処分時のコストに分けられる。

①取得時コスト、③処分時コスト

賃貸については、この両者は完全にゼロとなる。
他方、持ち家の場合は、モーゲージ組成手数料、住宅購入時の各種手続き費用、住宅処分時の仲介手数料といった手数料が発生する上、住宅の取得時と処分時の価値の差異分がコストとして発生する。$600,000で買った家が$500,000になれば、処分時に$100,000のキャピタルロスが発生するということ。
持家が値上がりする可能性も(特にアメリカでは)存在するが、手数料については確実にマイナス。

②定期的に発生するコスト

これは、家賃とPITIを比較することになる。

なので、①+③と②をそれぞれ見てあげることで、持ち家か賃貸いずれがお得か判断できるという感じ。

<好況のUSでありがちなパターン>

・好況だと、処分時に住宅が買値以上の価格で売れる。すなわち、①+③がゼロ、あるいは下手するとプラス(コストではなく収入)になる

・で、家賃とPITIを比較すると、だいたい同じくらいか、あるいは家賃の方が高い

・なので、①+③についても②についても、持ち家の方が賢明な選択肢だったりする

<今の日本でありがちなパターン>

・日本の場合だと、得てして家賃よりPITIが安く、「こんな高い家賃払うくらいなら、同じ金額の住宅ローンを払って自分の城を持った方がいいじゃないか...」という主張が非常に強く跋扈している。たとえば、家賃は年間350万円だが、PITIは年間300万円しかかからないという感じになりやすい。ひとつの原因は住宅ローンの金利の低さ。

・が、①+③について、処分価格が購入価格と比べて大きく低下することが多いので、仮に②が持家の方が有利だとしても、結局ここで大きく差がついて賃貸が有利となることが多い。持家にしたら②について年間50万円ほど持家の方がトクだが、①+③で1,000万円賃貸の方が得...みたいな事態が多い

・30年くらいの長期間住む前提で考えれば、持ち家が少なからずメリットが出てくる。上記の例でいえば、年間50万円の得×30>1,000万円。逆に、10年くらいで住み替える前提ならば、50万円×10年<1,000万円と、持ち家がむしろデメリットとなる。資産価値の低下が見込まれる日本では、長期間住む覚悟があるなら持家にも理はあるが、短期間で住み替えるなら賃貸の方が有利なことが多い。

長くなったが、検討のための基本的な考え方を習得できたのは、MBAレベルでの学びかどうかは怪しいが、個人的には大変参考になり刺激を受けている。

Wednesday, April 18, 2012

ネゴシエーション (4) そもそもネゴらない方がいいことも

先日の授業中にその場で考えるよう指示された問い:

・あなたは35歳の女性で、10日後に35歳の男性と結婚式を挙げる予定である
・そんな中、相手の男性が突然、結婚後の財産について契約書を持ってきて、一方的にサインを求めてきた
・さて、あなたはどうする?

① 拒否して、結婚する
② 内容について相談・調整し、その後サインして結婚
③ 内容を全面的に受け入れて結婚
④ 結婚取りやめ



もちろん答えのない問題であり、すべては各個人の考え方次第。であるが、教授が「個人的見解」として提示したのは「②だけは駄目だ」というもの。聞くと、本件のような話は、そもそもネゴシエーションが馴染まない性質の話であるとのこと。ネゴシエーションすることそれ自体が不可避的に関係を悪化させてしまう可能性が高く、ネゴシエーションを回避する②以外の選択肢の方が結果的にベターである可能性が高いとのことであった。

勿論理論的な話ではないので盲従する必要はないのだが、まあわかる気がする話であった。そして、この話を聞いて思い出したのが以下の笑い話:

・妻 「私のどこが好き?」
・夫 「それについては3つある。まず第一に...」
・妻 「...」



共通点があるとすれば、ロジカルに振る舞う行為それ自体が相手の感情にネガティブな影響を及ぼしうるというところであろう。勉強とか仕事とかに没頭すればするほど陥りがちなこの罠、回避することができるとしたら「人間らしいオフをちゃんと満喫する」とかなのかしら。

Friday, April 13, 2012

ネゴシエーション(3) プロスペクト理論

あなたが200人の小隊を率いる指揮官だったとして、戦場でちょっとピンチに陥ったとする。
逃げ道が2つあって、それぞれの是非について、参謀に以下のように言われたとき、どちらを選ぶのがよいだろうか:


Q1: ルートAは100人確実に失うけど、ルートBは「半分の確率で1人も失わないが、半分の確率で200人失う」
(注:どちらの選択肢も、期待値は100人)


では、この言い方だとどうだろうか:

Q2: 100人確実に助かるルートAと、「半分の確率で生存者ゼロだが、半分の確率で200人全員生存する」ルートB
(注:Q1同様、期待値は両者共100人)


実験によると、Q1では多くの人がルートBすなわちギャンブルを選び、Q2では多くの人が100人を確実に生存させるルートAを選ぶとのこと。この傾向のことをプロスペクト理論と言う。損失に関するときは人はリスク愛好的になり、利益に関するときはリスク回避的になる。

これ、少なくとも自分には結構あてはまる。麻雀とかしても、ちょっと勝つと保守的になってしまい、負けが込むとついつい更にリスクを取った手をとってしまったり。

で、ネゴシエーション上の教訓は以下のようなもの:

・あなたが問題を「損失に関するもの」と定義するか「利益に関するもの」と定義するかにより、相手の反応を変えることができる。もし自分が参謀で、できれば指揮官にギャンブルしてもらいたいと思ったのであれば、「100人死ぬか、死者ゼロ人か200人か、どっち」という聞き方をすればよい。

・基準点をどこに置くか、恣意的に選ぶのが良い。上記の例で言えば、基準点を生存者か死者か。ここを適当にせず、欲しい反応に応じて調整するとよいということ。


現実の状況でも、リスクを取るか保守的に行くかどうしよう..という局面は少なくない。
あるいは、自分としてはリスクテイクしたいが、決定するのが自分ではなく自分の上司であり、その上司がリスクテイクに消極的である..ということは結構ある。そんなときに、赤ちょうちんで上司の愚痴を言う前に取りあえず一回だけでも、この理論にトライしてみてもいいのかもしれない。

「課長、ギャンブルすれば半分の確率で利益倍増でっせ」というのではなく、「課長、ここで保守的に行っても、年間予算の半分にも到達しませんぜ」みたいな言い方をする方がマシ、と言う感じかな。。おそらく、ここの「損失に関連付けた言い方」をうまく考えることが差のつけどころなのかもしれない。。

Wednesday, April 11, 2012

ネゴシエーション(2) サンクコスト・ゴールへの集中

○ サンクコスト

経済学で最初の方に習うサンクコスト。

よくある例は、株で既に100万円負けてしまっているとき、新たに他の株を買うかどうかというもの。
こういう判断をするとき、既に負けている100万円にひきずられてしまうと「もう買うしかない」とか思ってしまいがちなのだが、セオリーでは「サンクコストの100万円は考慮せず、新たに買う株が良いのか悪いのか、そこだけ見て判断しよう」というもの。

つまり、経済学のセオリーとしては「サンクコストは無視せよ」というのが定石なのだが、経済+心理学と言ってよいネゴシエーションではややトリッキーなところがある。すなわち、「サンクコストを思い出させる」という心理学的なテクニックがありうる。

例:
Lowさんは、自力では車を50万円で売ることができるが、Highさんに頼めば、Highさんはその車を100万円で売ることができる。さて、LowさんはHighさんにいくらで車を譲るのがいいだろうか?



この例だと、Lowさんは、もしネゴシエーションをしなくても最低でも50万円は利益を得ることができるが、ネゴ次第ではそれ以上に利得を得ることができる(最高100万円)。他方、Highさんは、ネゴをしなければ一円も得られないが、ネゴ次第ではいくらか利益を得ることができる。

ある程度理詰めで考えると、
・Lowさんは、最低でも50万円は獲得できるはず。仮にHighさんが50万円以上要求してきたら、そのときは単に「じゃこの話はなかったことで」と交渉をやめてしまえばいいからだ。いわゆるBATNA。
・なので、論点は、「Highさんが売ることで生まれる追加的な50万円」だけとなるべきで、Lowさんが交渉せずとも得られる50万円はいわばサンクコストとして扱われるべきである。
・すなわち、Lowさんが最低限得られる50万円は議論の遡上に上げず、追加的に得られる合計金額である50万円についてのみ交渉がなされるはずである
・一例としては、この追加的利得50万円を半々に折半するのが公平であると言える。すなわち、Lowさんが50万円+25万円=75万円、Highさんが25万円。

しかし、教授がこの事例について学生等を使って検証したところ、半数の回答者は「Lowさんは75万円以下、Highさんは25万円以上」という結果となったという。すなわち、Lowさんが妥協することが多かったということ。

これは、Lowさんが50万円の「最悪でも稼げる利益」をサンク(考慮不要な金額)と判断しきれず、「自分は50万円利益があるしな...」と妥協してしまっていることを示唆する。逆に、Highさんの戦略として、Lowさんにとって50万円がサンクであると承知していたとしても「お前、最低でも50万円稼げるんだろ?俺は最悪ゼロよ」とLowさんの心理に訴える作戦がありうるということ。

教訓:
サンクコストは理論的には無視されるが、心理的にここを意識させる(無視させない)ことで、一方が得する場合がある(この例で言えばHighさんが25万円以上稼げるかもしれない)。頭でっかちに「サンクだから気にしちゃだめ」とか言わず、自分の利益になるなら一応突っついてみるのが良い。


○ ゴールへのフォーカス

交渉にあたっては、自分がその交渉で得たいものが一体何なのかよく理解する必要がある。そうすれば、本当に必要なものについては不用意に妥協することが減るし、不可欠でないものについてはあっさり妥協することも可能になるからだ。

例えば、とあるポカをしてしまった得意先のもとを訪問する状況。場合によっては先方が賠償請求をしてくるかもしれない緊張感のある状況。間違いなく怒鳴られるし、下手したら殴られるかもしれない。

こんなとき、まずあなたは「何がゴールか」を明確に意識して臨む必要がある。

・もし目的が「損害賠償を回避すること」なのであれば、多少怒られたりすることを厭ってはならない。
・もし目的が「怒られないこと」であるのなら、たとえば「損害賠償払うんで許してちょ」と言うことがありうる。

自分の短い社会人経験でも、「すげぇなぁ」という先輩は得てしてここができていた。絶対譲れない目的と妥協を厭わないそれ以外を区別して、それ以外の要素を妥協しつつきっちり主目的をはたす。逆に「イマイチ」な人は、たとえば対顧客も社内の書類仕事も残業をしないこともアレもコレも達成しようとして、結局どれもイマイチであるといった感じ。

結構、あきらめていいものを諦めるという決断力って、いまの日本社会では割と希少性がある気がするのだがどうだろうか。。

ネゴシエーション (1) 理論と実際

先週から始まったネゴシエーションのクラス。卒業単位的には不要なのだが、とりあえず「もう無理」と思うまでは履修し続けることにした。色々面白い学びがあるので、メモしておく。

(なお、自分のような「受けようかやめようかどうしようかなぁ」と言う人が最初は少なからずいるので、いわゆる交渉の実習は3週目から。いまのところは、簡単なオークションやゲームを通じて色々学んでいるところ)

○ 理論値? So What?

この授業、35%が交渉実習、35%が統計クイズ実習、残りがその他(レポート、参加点等)で決まる。で、初回にはシンプルなオークションというクイズ実習があった。

Q. とある財(価値100ということを皆が知っている)について、1から100の整数のいずれかを入札せよ。参加者のうち最高値を入札した人が勝者でその財を受け取るので、取り分は

勝者:100-x
敗者:ゼロ

となる、というゲーム。ライバルが一人しかいないとき、あなたは何点ビッドしますか?


簡単なオークション理論のフレームワークに従うと、「合理的な理論値」は以下のように計算される:

・仮定:相手のビッドは確率分布で1から100までの一様分布と仮定する。
・このとき、自分がXにビッドしたとき、自分が勝つ確率はXパーセント。
・また、このときの自分の利得(Surplus)は100-X。

なので、利得の期待値はX(100-X)となる。
最大化問題の一階の必要条件は、左の式をXについて微分したものがゼロになることなので
100-2X=0という式が立ち、X=50が「最適値」となる。

このクイズ、自分は当初99とか100とか入れようとしたのだが、最終的にはこのフレームワークに従い50を入札した。

だが、これは結果的にかなりサイテーな戦略であると評価されてしまったのだ。

授業に出てわかったが、教授は、各生徒のスコア(素点)を大体で言うと以下のように計算していた:

素点(X)=(Xより小さい金額を入札している人数)x(100-X)

その上で、素点について分布を計算し、平均点の人はゼロ点、プラス1σの人は1点、マイナス1σの人はマイナス1点..という風に最終得点(z-score)が計算されていた。

自分の場合、50より小さい入札をした人が殆どいなかったため素点の最初の因数が殆どゼロとなってしまったようで、かなり低いzスコアを貰ってしまった。

あるいは、ゲーム理論に基づき99を入札した人(相手がXを出したらYを出し..という先手読みのようなことを繰り返した先にあるナッシュ均衡は99)もやはり駄目だった。99だとほぼ全員に勝つので一つ目の因数は大きくなるのだが、二つ目の因数が1と小さいので、「平均と比べてどうか」というzスコア方式においてはマイナスのグループに入っている。

つまり、オークション理論も、ゲーム理論も、理論値は実戦の場においてはイマイチであったのだ
(もちろん、教授がどうやって素点を採点するかヨクワカランという問題もあるのだが)。

で、勝者すなわちプラスのzスコアを貰った人は、75近辺の数字をビッドしていた人であった。教授によると、これは経験則レベルである程度はっきりと説明できるそうだ。すなわち、

・たとえば一様分布を前提としたオークション理論を使うと、理論値は50となる。
・しかし、ここで立ち止まらず、もう一回同じことをするとどうなるか。すなわち、皆が50以上出すことが自明なのだから、50から100の一様分布でもう一度同じ期待値最大化問題を解くとどうなるか。この解は75となる。
・人間の傾向として、この手の計算を1回でやめてしまう人が多い傾向があるので、「もう一回」同じ計算をやるだけで勝てる可能性が大きく高まる。この例では、50でやめずに75でストップすれば一番勝てる。
・他方、やり過ぎて極限値すなわち99まで行ってしまうとこれまた勝てない。理論はさておき、「1,2回だけ同じことをやる」という戦略が、えてして実戦では最適戦略となることが多い。


具体例が長くなってしまったが、自分の理解によれば、ポイントは以下の通り:

・この手のゲームやオークションでは、「相手がどんな戦略をとるであろうか」という読みが非常に大事。
・基本戦略は、「相手がとるであろう戦略を所与として、それに対する最適な対応」になる。たとえば、ジャンケンで相手がグーを出すと予想するのであれば最適戦略はパー。
・で、1回か2回だけ先の先を読んでやるのが経験則上いちばん勝てる。相手がグーを出すという仮定から始めると、そのときの自分はパー→それを相手が読むと相手はチョキを出す→であれば自分はグー、といった具合。この先読み回数がゼロだと得てして負けるし、「nが無限大のときの理論値」も得てして負ける。

先を読むけど、読み過ぎちゃだめ。なかなか難しい。。

Friday, April 6, 2012

Jargons

初めて取る不動産の授業、用語がわからないものが多いのでメモ:

・Detached: 一戸建て
・Attached: 長屋(複数住居が同一敷地内にある)

・Condo (Condominium): 分譲マンション. アパートは所有者と住人が異なるが、Condoは同一。あるいは、賃貸型リゾートマンション。一般的には高層。
・Townhouse: 長屋スタイルの集合住宅。一般的には低層。
・CO-OP:分譲マンションのようなものだが、買い方として、「405号室を買う」というか「持分の●%を買う」といった買い方になる。NYはCO-OPが主体だそう

・Modular House (Pre-fab):工場で作られたパーツを現地で組み立てる形式の住居。プレハブ。
・Mobile House:プレハブの一形態で、Modularより簡素(家ごと運ばれたり)。

・Duplex: 2家族用長屋。3家族用ならTriplex。
・High-rise 高層
・Podium:3階くらいまでを商業施設として賑わいを保ちつつ、上位層を住居とする高層建築。丸ビルか

・Tilt-up Construction: ティルトアップ工法。現場でコンクリート壁を4つ作って、それをクレーンで立てることで建物を作る工法。

・Gross Leases:諸経費はオーナー負担の契約形態。
・Triple net (NNN)Leases:不動産の税金・保険・維持費という3種類の費用をテナントが負担するリース契約形態。

・Strip mall: 独立したショッピングセンター
・Power center: 中心となる大型店が入っているショッピングセンター (大型店:Anchor)

Wednesday, March 21, 2012

IRR (4)

4.問題点 (4) レバレッジを考慮するか否か?

自分(LP)としては100しか投資していなくても、ファンド(GP)が別途レバレッジを使った結果、レバレッジを使わなかったときと比較してIRRが高く出る。

実際問題、レバレッジのおかげで投資家のリターンも高くなっているという意味においてはレバレッジを割り引いて考える必要性は薄い。ただし、仮にIRRを見る目的がそのファンドマネージャーのトラックレコードを見るといったときは、その人の成し遂げたIRRを、「レバレッジのおかげ部分」と「それ以外」に分けた方が実力がより鮮明に見える。

※もちろん、レバレッジを効かせるのも実力のうちなのだろうが。。

5. 問題点(5) ベンチマーキングするか否か?

4.のレバレッジと同様、例えばマーケットリターンなどとベンチマーキングすることで、そのファンドマネージャーの実力を抽出することができる。

実力=トータルIRR - レバレッジのおかげによる部分 - ベンチマーク部分 みたいな感じ。

6. 問題点(6) 複数のプロジェクトをどうまとめて評価するか?

こんな感じで、2つのプロジェクトを異なる期間にわたり実行しているファンドのトータルのリターンをどう評価するかという話。

Year CF1 CF2
1 -10000
2 15000
3 10000 -1
4 2
5 3



色々な方法がある(なお、ここでは一旦MIRRは封印):

i) 個別のIRRを取って、平均を取る

IRR(1)=100%、IRR(2)=200%。なので、平均=150%。
しかし、10000を15000や10000にしたプロジェクトと、1を2にしたプロジェクトを同列に扱ってよいのだろうか?

ii) 加重平均を何らかの形で取る
例えば初期投資で加重平均を取ると、加重平均IRR=100.01%になる。

iii) キャッシュフローを合計する
二つのキャッシュフローを合計すると、(-10000, 15000, 9999, 2, 3)というCFになるので、これについてIRRを取ると、100.003%となる。
しかし、こうやって計算すると、万一途中に1つ以上負のキャッシュフローが出てくると問題が出る。すなわち、IRRが複数存在してしまうので(2次以上の方程式となるため)。
複数の解が存在するとき、そのどちらが適正なIRRか断言することはやや難しい。

iv) Time-zero IRR
全てのプロジェクトが行われた瞬間をゼロとして、実際の年月ではなく時点に置き換えてプロジェクトを再配列する。

Year CF1 CF2
1 -10000 -1
2 15000 2
3 10000 3
4
5



この合計についてIRRを取る。

個人的には、加重平均かこのTime-zero IRRが良いと思うが、加重平均は何を以てウェイティングするかという問題があるので、Time-zero IRRが一番ましであるように思う。

IRR (3)

3. 問題点(3) 再投資問題その2・・・IRRとMIRRとIMIRR(とNPV)

プロジェクトの予想CFが

プロジェクト1: (1, 2, 3) = (-100, 150, 100)



みたいなプロジェクトに投資するPEファンドに銀行が投資したとする。
その時、PEと銀行の間で、解約できるのは早くとも5年後という契約が結ばれたとき、銀行にとってのCF(※手数料は便宜的に無視)は

(1, 2, 3, 4, 5)=(-100, 150, 100, 0, 0)



となる。

このプロジェクトの採算性はどのように測定するのがいいのだろうか?

Year CF(Pr.) CF(Fund)
0 -100 -100
1 150 150
2 100 100
3 - 0
4 - 0
5 - 0
NPV(@20%) 94 94
IRR 100% 100%
MIRR 59% 21%
IMIRR 59% 59%


候補1: NPV
→ まず、「適性な割引率」のところでモメる。実務レベルで、関係者全員が100%納得するような割引率を見出すことは簡単ではない。
→仮に適正な割引率が見つかったとしても、3年目以降の(0, 0, ..., 0)のNPVがゼロで、プロジェクトの採算性とファンド投資の採算性を区別することができない(2年度末に解約できないデメリットを測定できない)。
特に最初の問題により、NPVは眉唾ものとされ、ファンドのパフォーマンスでNPVを出しているところは殆ど存在していない(NPVの是非を見るためには、割引率の導出過程も見なくてはならない)。

候補2: IRR
→NPVのようなうさんくささはなくなる。計算に使われる数字はナマのCFだけだからだ。
→しかし、「IRRで再投資」という前提により、数字が大きく出てしまう。換言すると、最後の100のあと、解約まで1年目の150や2年目の100がIRR(100%)で再投資されるという前提となり、怪しい。
→また、2年目で終了となるプロジェクトと5年間解約できないファンドの比較ができない(両方ともIRRは100%)。

候補3: MIRR
→IRRの怪しい前提をクリアでき、出てくる数字も妥当なものとなる。
→プロジェクトのMIRRとファンドのMIRRを区別できる。
→ただし、実際にPEあるいは投資家がその利回りで再投資するか否かは無視しており、再投資という仮定に若干の怪しさが残る。

候補4:IMIRR(Isolated Modified IRR)
→Phalippouさん他が提唱した概念で、「プロジェクトが終わったところで、再投資の前提を置かず、投資が終わったということにして計算してみましょう」というもの。すなわち、解約できる5年度末まで待たず、2年度末に解約がなされたと考えてMIRRを計算するということ。
→これだと、再投資の前提を最小限にして(途中のCFはどうしてもハードルレートでの再投資が仮定されるが、最後のキャッシュフローは再投資されない)怪しさを最小限にできる。

上記Phalippouさん他は、個別のプロジェクトを評価するにはIMIRR(かNPV)、ファンド単位で評価するにはMIRR(かNPV)がいいのではないかと主張している(実務家のそれに対する反対意見と、それに対する更なる反論も展開されている)。

個人的には、ハードルレートについて広く合意形成可能な相場に合ったものが使えるのであればMIRRの方が適切であるような気もするが、やはりそこに恣意性が入るので、数字が大きく出てしまうリスクを我慢してもIRRで行くのが良いのではないかと考える。

IRR (2)

2. 問題点(2) IRRと投資リターン:IRRにおける再投資の仮定

IRRは、その定義式上、暗黙に「各期得られたキャッシュフローは、IRRレートにて最終期まで毎年再投資される」と仮定が織り込まれている。

例えば上記の「今100投資して、1年後に150、2年後に100」というプロジェクトのIRRは上記の通り100%だが、この計算式は、暗黙に、「1年目の収入150が、IRRである100%の利回りで満期たる2年度末まで(1年間)再投資される」という前提の上で計算されている。

Year CF 再投資期間 FV@IRR
0 -100
1 150 1年 300
2 100 0年 100
IRR 100% =IRR(-100,150,100) 400
CAGR 100% =r (100, 400, 2Y)

* rという関数は(多分)なく、実際は、POWER(400/100, 1/2)-1という計算をしている。


はたして、この「1年目の収入が利回りIRR=100%で再投資される」という仮定はそんなに易々と認めてよい仮定なのだろうか?特に、非連続的な投資活動が主体のPE投資とかでは、すべての収入があまねくIRRに等しい利回りで再投資されるという仮定はかなり怪しい。

言い換えると、「-100、150、100」というプロジェクトの投資家が実際得られる収益率(年率換算:CAGR)は、1年目の収入150の再投資利回りによってIRRたる100%からずれる。さらに言うと、普通は大幅に下振れする。すなわち、1年目の収入150を利回り100%で再投資したと勝手に仮定することで成り立っているIRR100%は、投資家が実際得られる収益率と比較して大きすぎるのだ。投資家にとってリアルな指標は「今日100投資したら、2年後にXXX戻ってきた」というCAGRであり、IRRは参考になりこそすれあくまでフィクショナルな指標でしかないのだ。

この、「途中の収入の再投資利回りをIRRと仮定してしまうことで、実際の収益率よりIRRが大きくなってしまう」という問題を克服するためには、要は再投資利回りをIRRではなくよりリアルなものに置き換えれば良い。それを行うことでIRRの補正を行った指標が補正IRR(MIRR: Modified IRR).

MIRRの計算方法は下記の通り:

1. 再投資利回りをIRRではなく何らかの妥当なレートにする(ここでは日本のリスクフリーレート見合いで1.5%とする)
2. 途中の収入を、IRRではなくこのハードルレート1.5%で再投資するものとみなし、満期時の将来価値を計算する
(この例では、150×(1+1.5%))
3. 将来価値の合計と初期投資を比べることで投資収益率を計算する
この例では、2年度末における収入は、再投資利回りをIRRから1.5%に変えることで400から252に減少する。これに伴い、投資利回り(CAGR)も100%から59%に低下する。IRRでの再投資という仮定のせいで、IRRはこんなに過大に見えていたということ。
Year CF 再投資期間 FV@IRR FV@1.5%
0 -100
1 150 1年 300 152
2 100 0年 100 100
IRR 100% 400 252
CAGR(IRR) 100%
CAGR(1.5%) 59%


勿論、毎回毎回このように時間をかけてMIRRを使わなくてはならないということではない。複数のプロジェクトを比較する際、投資期間が等しく再投資方法に相違がないのであれば、単純にIRRを見比べれば良い。ただし、期間が異なるプロジェクト、たとえば


プロジェクト1:CF=(-100, 150, 100)
プロジェクト2:CF=(-100, 150, 100, 0, 0, 0, 0, 0,)

みたいな2つを比べるときは、IRRでなくMIRRを使わないと、「両方ともIRR100%だからどっちでもいいよね」みたいな誤った結論が出てしまう(実際は、プロジェクト2がだいぶ不利)。とある論文とかは、「PEファンドとかがイケてるファンドとそうでないファンドでIRRに大きな開きがあるが、IRRをMIRRに補正すると、そこまで差がない」ということを言っている(数式の定義上当たり前の話ではある)。

なお、MIRRはエクセルに数式として入っている。
MIRR=MIRR(キャッシュフロー、初期投資の調達レート、再投資レート)
ここで初期投資の調達レートを0%として、再投資レートを上記の例の通り1.2%とすれば、上記と同じMIRRが得られる。