IRRは、その定義式上、暗黙に「各期得られたキャッシュフローは、IRRレートにて最終期まで毎年再投資される」と仮定が織り込まれている。
例えば上記の「今100投資して、1年後に150、2年後に100」というプロジェクトのIRRは上記の通り100%だが、この計算式は、暗黙に、「1年目の収入150が、IRRである100%の利回りで満期たる2年度末まで(1年間)再投資される」という前提の上で計算されている。
Year CF 再投資期間 FV@IRR 0 -100 1 150 1年 300 2 100 0年 100 IRR 100% =IRR(-100,150,100) 400 CAGR 100% =r (100, 400, 2Y)
* rという関数は(多分)なく、実際は、POWER(400/100, 1/2)-1という計算をしている。
はたして、この「1年目の収入が利回りIRR=100%で再投資される」という仮定はそんなに易々と認めてよい仮定なのだろうか?特に、非連続的な投資活動が主体のPE投資とかでは、すべての収入があまねくIRRに等しい利回りで再投資されるという仮定はかなり怪しい。
言い換えると、「-100、150、100」というプロジェクトの投資家が実際得られる収益率(年率換算:CAGR)は、1年目の収入150の再投資利回りによってIRRたる100%からずれる。さらに言うと、普通は大幅に下振れする。すなわち、1年目の収入150を利回り100%で再投資したと勝手に仮定することで成り立っているIRR100%は、投資家が実際得られる収益率と比較して大きすぎるのだ。投資家にとってリアルな指標は「今日100投資したら、2年後にXXX戻ってきた」というCAGRであり、IRRは参考になりこそすれあくまでフィクショナルな指標でしかないのだ。
この、「途中の収入の再投資利回りをIRRと仮定してしまうことで、実際の収益率よりIRRが大きくなってしまう」という問題を克服するためには、要は再投資利回りをIRRではなくよりリアルなものに置き換えれば良い。それを行うことでIRRの補正を行った指標が補正IRR(MIRR: Modified IRR).
MIRRの計算方法は下記の通り:
1. 再投資利回りをIRRではなく何らかの妥当なレートにする(ここでは日本のリスクフリーレート見合いで1.5%とする)
2. 途中の収入を、IRRではなくこのハードルレート1.5%で再投資するものとみなし、満期時の将来価値を計算する
(この例では、150×(1+1.5%))
3. 将来価値の合計と初期投資を比べることで投資収益率を計算する
この例では、2年度末における収入は、再投資利回りをIRRから1.5%に変えることで400から252に減少する。これに伴い、投資利回り(CAGR)も100%から59%に低下する。IRRでの再投資という仮定のせいで、IRRはこんなに過大に見えていたということ。
Year CF 再投資期間 FV@IRR FV@1.5% 0 -100 1 150 1年 300 152 2 100 0年 100 100 IRR 100% 400 252 CAGR(IRR) 100% CAGR(1.5%) 59%
勿論、毎回毎回このように時間をかけてMIRRを使わなくてはならないということではない。複数のプロジェクトを比較する際、投資期間が等しく再投資方法に相違がないのであれば、単純にIRRを見比べれば良い。ただし、期間が異なるプロジェクト、たとえば
プロジェクト1:CF=(-100, 150, 100)
プロジェクト2:CF=(-100, 150, 100, 0, 0, 0, 0, 0,)
みたいな2つを比べるときは、IRRでなくMIRRを使わないと、「両方ともIRR100%だからどっちでもいいよね」みたいな誤った結論が出てしまう(実際は、プロジェクト2がだいぶ不利)。とある論文とかは、「PEファンドとかがイケてるファンドとそうでないファンドでIRRに大きな開きがあるが、IRRをMIRRに補正すると、そこまで差がない」ということを言っている(数式の定義上当たり前の話ではある)。
なお、MIRRはエクセルに数式として入っている。
MIRR=MIRR(キャッシュフロー、初期投資の調達レート、再投資レート)
ここで初期投資の調達レートを0%として、再投資レートを上記の例の通り1.2%とすれば、上記と同じMIRRが得られる。