Friday, May 4, 2012

持家vs賃貸 (2)

先日授業で持家と賃貸の経済性について比較するケースを取り扱って以来色々と考えてきたことの整理

● はじめに(Disclaimer)・・・経済性が全てではない

以下では、「アメリカはともかく、日本に限定して言えば、おそらく経済性の観点では賃貸の方が有利だと思う」という議論を展開する。しかし、自分は「経済性がすべての判断の最大かつ唯一の判断根拠となるべきである」と言っているわけではなく、単に「他の要素を一切無視して、経済性だけ見たとすれば、たぶん賃貸の方が有利」と言っているだけで、「他の要素を考慮するあなたは間違っている」と糾弾しているわけでは全くない。

家を所有する喜び、大きな買い物をするということ自体の喜び、自分の好きなようにカスタマイズできる便利さ、etc。こういったものは間違いなく持家購入に人を誘導する重要なファクターであり、できることならこういった要素も数字で考慮できたらどんなに良いことかと思う。しかし、ここでは、こういったものは「とりあえず」無視して、経済性にフォーカスして議論を進める。

なので自分の立場を言い換えると、「いろいろな要素があるのは承知しているつもりなので、自分としてはとりあえず経済性についてだけ論じてみると、おそらく賃貸の方が有利」という立場である。

また、後述するが、自分が今住むLAは、日本と比べると持家有利・賃貸不利の土地である。なので、自分は無意識のうちにLAと比較することで日本の賃貸が有利であると感じている可能性があり、それが記述に偏向をもたらしている可能性があるがそのときはごめんなさい。




●ざっくり考えるなら・・・月間費用モデル(真の持家コスト=ローン返済額+10万~15万円)

・まず賃貸では、毎月発生する費用は基本的に家賃だけ。共益費とかの名目でいくらか追加的に取られることもあるが、ここではそういったものを全て家賃にひっくるめて考える。そうすると、月の負担額は

負担額 = 家賃

となる。

・次に持家の場合、

毎月支払があるもの(実際にお金が出ていく)は、
①住宅ローン返済(元本・金利)
②保険料
③固定資産税が挙げられる。
また、定期的に発生するわけではないが、④修繕費も毎年結構な金額発生するはずだ。

まずこの時点で言えることは、「住宅ローンの返済額の方が家賃より安いので、持家の方が有利」という話は正確ではないということだ。②③④を考慮していないからである。

また、持家の場合、売却損が発生することは忘れてはならないと思う。たとえば4,000万円で買った一戸建てが20年後に売却したときに1,600万円にまで価値が下がっていたときには、売却損は(4,000-1,600)=2,400万円となる。トータル6割減だが、20年で上物の価値がゼロになってしまうという日本の相場観に照らせば、この6割減の例はさほど極端な例ではないと思う(※土地は減価しないので)。売却時までこの費用は顕在化しないので軽視されがちと思うが、これを「2,400万円の売却損を、毎月少しずつ負担する」というように考えてみるとそのインパクトがわかる。

トータルの売却損・・・2,400万円(20年)
居住月数・・・20年×12=240か月
一か月あたり売却損・・・10万円

一般化するなら、一カ月当たり売却損は
(売却損)/居住月数
となる。


つまり、2,400万円の売却損というのは毎月10万円の負担に等しい。この2,400万円の売却損は売却するその瞬間まで顕在化しないので軽視されがちだが、持家に住むということは、上記①~④の「実際に毎月支払うコスト」に加えて「支払は売却時まで先延ばしにしている、月10万円の隠れコスト」も同時に負担するということになるのだ。

なので、家賃と比較すべき、持家の毎月の負担額は
①住宅ローン+②保険料+③固定資産税+④修繕費+⑤売却損の月割り
という①~⑤の合計金額だ。自分は経験上家賃と①だけを比較して持家有利という結論を出している人を多く見てきたが、それは正しくない。

今住宅ローンの返済額が15万円であるならば、そのほかの②~⑤も含めた総額は、おそらく25万円~30万円となろう。自分の感覚では、持家に毎月25万円投じるなら、月20万円の借家に住みつつ毎月5万円貯金するのも悪くないと思う。毎月5万円の貯金=20年で1,200万円。老後に1,200万円余分に資産があるというのはかなり嬉しい。

また、「売却代金で住宅ローンが返せれば、それで問題ない」というが、それは資金繰り上追加でお金をかき集める必要がなくて良かったというだけで、損していないという意味ではない。仮に売却価額がローン残高を上回っていたとしても、売却損が出たのであればそれは厳然とした損失である。

※なお、アメリカでは、住宅価格の割に家賃が高いことと、売却価格があまり下がらず売却損が比較的少額で済むことから、住宅保有はわりと良い投資と認知されている。これは、住宅価格の割に家賃が低く、多額の売却損を覚悟せざるを得ない日本の事情と異なっている。日本と似たような環境の台湾出身の友人は、親が台湾の投資用住宅を売って、その金でLAに投資用住宅を買おうかとしているらしい。おなじ40万ドルでも得られる家賃が格段にLAの方が高いそうで、こちらの方がよほど投資になるとのことであった...

※上記の通り、持家の最大のコストの一つは売却損なので、売却せず死ぬまで住み倒すことで売却損を永遠に先延ばしにするという技(?)もある。もし死ぬまで住むのであれば、どんな計算をしても持家の方が圧倒的に有利になる。なぜなら繰り返しになるが売却損がとても大きいので。なので、確信をもって住む変えることなくひとつの家に住み続けると言えるのであれば、たぶん文句なしで持家にしてしまってよいと思われる。(ただし、長く住むことで発生する修繕費はあまり見ていない...)


● きっちり考えるなら・・・通年モデル

厳密に賃貸と持家の経済性を比較したいのであれば、できればエクセルを用意して、取得時から処分時(あるいは永住予定であれば、予想される死亡までの年数)までの表を作ってみるべきであろう。毎年のコストを列挙して、最終的にはそれを合算する。NPVを計算するか否かだが、将来の費用を軽視しないためにも敢えて割り引かない方が保守的で望ましいのではないかと自分は感じている。

これを作ると、たとえば「4,000万円の家に20年住んだ後1,600万円で売却した場合の総費用があれば、その20年間、家賃いくらの家を借りることができるだろうか」という検討ができる(ローンの頭金や金利・修繕費や固定資産税について丁寧に設定する必要があるが)。自分の試算によれば、4,000万円の家に20年住むだけのお金があれば、家賃20万円~22万円の家を借りることができる。あるいは、最初10年18万円の賃貸で我慢できれば、後半10年は25万円の家を借りることができる。

また、モデルを作れば、ローン期間を延ばせば伸ばすほど月々の負担は低減するがトータルの利払いが増加することなども目で確認できるようになる。20年ローンと35年ローンでは金利負担がとんでもなく異なるのだが、20年ローンにすると月々の返済額が多額になり家計が回らない...みたいなところのシミュレーションができる。






● 最後に・・・その上で、経済性以外の論点もできるだけ考える

価値観は人それぞれ。経済性以外にも無数に存在する家を買う理由あるいは家を借りる理由も、しっかり検討した方が良いだろう。経済性だけで判断を下すのも、あまりに人間味がない行動ではないか。

※個人的には、賃貸に下記のような「数字では表せないメリット」があると感じている。

・売却損を気にする必要がないので、不動産市況にあまり惑わされない。他のこと(仕事や趣味)に集中できる。
・家族のライフステージに柔軟に対応できる。子供が増えたら広い郊外の家、子供が独立したら狭い都心、etc。
・地方や海外への転勤転職にも柔軟に対応できる。
・子供の教育環境にも対応できる。優秀な学区云々、通学先の近隣、etc。
・万一所得が減少したときには、翌月からでも家のグレードを落とすことで費用圧縮ができる。
・今後日本経済が緩やかに縮小基調に向かうと考えれば、当然、家の需要も低下し、価格も下落する(金融政策次第だが..)

このように賃貸にはいくつかの定性的なメリットが存在するが、自分が市況を観察している限りでは、こういったメリットが家賃にオンされている形跡(持家価格に比べて家賃が割高になっている)は見られない。

ただ、経済性について間違った認識を持ったまま経済性以外の論点について考えるのは危険であるというのが自分の意見。