続き。
Q. MBA取るとその人のパフォーマンスは上がるのか?
A. たぶんそれに関する研究はまだないと思うが、自分の意見は「その質問自体がナンセンス」というもの。同じ会社に戻って比較的似た仕事をする自分が言うのもなんだけど、これは日本で「この仕事、高卒の従業員を大学に送ったらパフォーマンスが改善するだろうか?」なんて疑問はあまり論点にならないのと同じような話だと思う。日本で高卒と学卒がそもそも違うことをやるのと同様に、MBAの本家アメリカでは学卒とMBAは違うことをやるのだ。なので、「同じことを学卒とMBAがやったら?」という問いはそもそものところでちょっとクエスチョンマークがつく、、、というのが自分の意見。
その人の実力が向上するという側面ももちろんあるとは思うけど、それ以上に重要なのは、MBAにより環境が変わるということ。商業銀行の支店業務をやっていたA君がMBAのおかげで投資銀行のトレーディングデスクに座れるようになる、小売店の副店長だったBさんがMBAによりグローバル消費財メーカーのマーケターになれる。そういう環境変化の結果、A君やBさんの生み出す価値は増大するのだ。銀行支店の仕事において生み出す利益が数倍になるとか、小売店の売り上げを倍増させるとか、そういう増え方もあるかもしれないがそれは本質的なものではない。
で、アメリカでは学卒とMBAの間に慣習的壁が存在するので環境を変えるためにMBAが半ば必須なのだが、日本ではそこに壁はあまり存在しないところに「日本人にとってのMBAの価値」という話のややこしさがあると思う。日本人でも、結果的に、MBAをきっかけとして転職したり起業したりすることで環境を変えている人は少なくない。でも、アメリカと違って、MBAじゃないと変えられない環境変化ではないことが多い。
Q. MBAホルダー個人にとって、MBAの価値は何?
A. 人それぞれというのが最大公約数的な答えだと思う。「MBAを取らないといけない世界」を見つけたのでそこに行くための切符としてMBAを取る人もいるだろう。あるいは、自分のように、とにかく知的充実あるいは成長機会を求めて...という人もいるだろう。他にも、人脈、特定のスキル、国際経験、欧米大学院で学ぶ経験等、何を求めるかは完全に人それぞれ。
あとは、価値の定義にもよる。価値を「給与」とか「待遇」と定義した場合、案外多くの人MBAホルダーに「価値」があまり改善しないという事態が起きるのではないかと推察される。特に日本企業からの社費留学で来た人だったら、待遇がMBAにより改善することはかなり考えづらい。なので、もしあなたにとって価値=勤務先での待遇ということであれば、MBAは必ずしも良い選択肢にはならないかもしれない。
※もちろん、会社の金で行く以上、「戻ったら投資してもらった分あるいはそれ以上に会社の利益に寄与してやるぜ」的心意気はあった方が良いとは思うし、自分は一応そう思っている
Q. では、おまえ自身にとっての価値は?
A. 自分の場合は、「投資家たる勤務先の利益に直結するような方向での成長→うーん...maybe」、「自分個人の人間としての成長→Definitely」といったイメージ。この2年間留学せずに職場で揉まれている同期と比較して自分が同等あるいはそれ以上のパフォーマンスを発揮できるかというと、そりゃまあ知識面では自信あるけど実務レベルに落とせるかと言われるとやや心もとないというか結構不安というのが正直なところ。勿論全力を尽くすのは間違いないけど、自信あるかと聞かれたら「すいません、ありません」というしかない。
他方、自分がこの2年間留学したことでより良い人生を送れるようになったかと考えるとそれは間違いなくそうだ。性格だってだいぶ変わったと思うし、好奇心のアンテナも広がったし、友人も増えたし。勿論知識も増えたし英語も使えるようになった。場合によっては転職あるいは起業の可能性も高まったかもしれないし。
このような「投資家たる派遣元にとってのリターンと、MBAホルダー個人にとってのリターンのねじれ」はある種の十字架として自分が背負っていくものなのだろうなと思っている。まあいずれにせよ、仕事時間中は最大限頑張るしかなくて、その結果自分がハイパフォーマーになるのか、凡人で終わるのかは今の時点ではわからない。自分にできることは最善をつくすことだけ、かなぁ。。
(まとめ、というか主に言いたかったこと)
・MBAとか修士とかの就職について日米で違うのは、学卒と院卒の間に壁があるかどうか。USでは壁があってMBAが優遇されているが、日本では壁がないのでMBAが優遇されづらい。MBAの人は、USでは慣習的障壁によって自分達が優遇されていることにもっと自覚的であるべき。優秀だから厚遇を受けているというよりは、慣習のおかげでレントをもらえているだけと考えた方が良い
・USでMBAが高級を食んでいるのは優秀だからではなく需要超過だから。MBAの人が「米国ではMBAが厚遇されるのに日本ではされないのはおかしい」というのは国ごとのMBA周辺の労働市場の需給を理解していない無理解の露呈にすぎない
・日本の、学卒と院卒で壁を作っていない慣習は個人的には好きだが、学卒と院卒をガチンコ勝負させるだけではなくさせたあとの厚遇・冷遇にメリハリをつければ、「優秀者()」がもっと門をたたいてくれるのではないか
(でも、実務上パフォーマンスを測定したり差をつけるのが難しいなら、入り口で優遇するのも次善策としていいかも。。好きじゃないけど)
・MBAの主要な価値は、「同じことをよりうまくできるようになること」というよりも「全く違うことができるようになるチャンスが得られること」。一兵卒として鉄砲の使い方がうまくなるというよりは、一兵卒から将校になることでより戦局に大きな貢献ができるようになる、ということ。なので、同じ仕事をさせても、たぶんそんなに差は出ない(多少は出るとは思うが)
・そんなこんな考えると、今の日本で金銭的価値だけでMBAを選ぶということにはなかなかなりづらい。が、個人単位ではMBAというのは間違いなく素晴らしい経験であり人を成長させてくれる(会社でのパフォーマンスを上げるとは言う自信ないけど..)ので、金の工面がつくならどんどん目指すと良い、というポジショントークでした。