Q. MBAに価値あるの?
A. 誰にとっての価値かによる。採用者(企業)にとっては「あるけど、メリットは殆どMBAへの給料に消えるので、結局ない」というのが自分の仮説。MBA取得者本人にとっては、「形は人それぞれだけど、いろいろある」と言う感じ。
Q. なぜ欧米企業はMBAを好んで雇うのか?
A. MBAの方が学卒より優れているから...というよりも、「欧米では、そういう慣習だから」に過ぎないと思う。日本で、高卒と学部卒の間に大きな待遇差があるのと同じような話だと思う。
Q. MBAを雇うと企業のパフォーマンスは良くなるのか?
A1. これに関する具体的な研究は見たことがないが、「傾いた会社のCEOの大半がMBAだった」といったようなHBSの読み物は読んだことがある。
A2. ひとつ使えるかもしれないフレームワークは、Berk他(2004)のアセットマネジメント業界におけるモデル(下記)。
業界では投資資金は余っているがスキルのあるポートフォリオマネージャーは相対的に不足しているので、すべての超過利益(レント)はポートフォリオマネージャーに流出してしまうというもの。
→このアナロジーをMBAと企業にも使えるように思う。
すなわち、欧米ではポジション数の割にMBAがまだまだ不足しており(金融コンサルが高報酬で独占してしまっているのが一因)、仮に企業が良い業績を上げてもそのレントはMBAに帰属してしまいがち。すなわち、契約時点からの高報酬や高額ボーナスや高額での引き抜きを通じ、企業の高いパフォーマンスはすべて希少資源であるMBAに帰属してしまっているのではないだろうか。超ざっくり言うと、MBAはまだまだ売り手市場なのだと思う。本当にMBAが売り手市場でなくなったときには、いよいよ、「MBAって本当に学卒よりパフォーマンスいいの?待遇一緒でよくないか?」という議論が起こるときだと思う。そういった議論が起こって実際にMBAがレントを得られなくなるその時までは、MBAはまだまだ希少資源なのだと思う。
逆に、日本では、希少なのは大企業のポジションでありMBAではない(と思う)。なので、MBA学生が高報酬を簡単に得られたり、引き抜かれまくったりということはあまり生じていない。
なので、別にアメリカでも、MBAは価値があるから高給をもらっているわけではなく、単に相対的に希少だから高給を貰っているだけのことなのだと思う。価格は商品の品質というよりは需要と供給のバランスで決まる、ということだと思うので、「欧米ではMBAは厚遇されてる」→「なのでMBAは価値あるはずだ」→「なのに厚遇しない日本企業はおかしい」という理屈はナンセンスだと思う。
万一なにかの弾みでUSにおいて学卒とMBAの間の慣習的障壁がなくなってしまったら(MBA必須という求人が減ったら)、おそらく、どれだけMBAが優秀だったとしても給与格差はみるみる縮小すると思う。
Q. 日本企業がMBAを採用しないのはなぜか?オワコンなのか?
A. MBAが求めるような優遇をしてやれないから、ということではないかと思う。
日本では、学卒は高卒より優遇される慣習があるが、院卒は学卒に対して全然優遇されない。せいぜい初任給が数万円高い程度。なので、多くの日本企業では学卒と院卒はほぼ対等な状態でスタートすることになり、優秀な学卒が出世する一方そうでない院卒が出世しないなんてことが普通に起きる。
でも、欧米では、院卒は学卒に対して優遇されるケースが多い。MBAじゃないと幹部候補(日本で言うところの総合職)になれず学卒ではスタッフ止まりという会社が多いようだ。なので、欧米のMBAに行った日本人も、そういう「MBAが学卒と比べて優遇される会社」というのを知るので、同程度の経験を積んだ非MBA社員とガチンコ勝負させる日本企業はある種アンフェアあるいは「割に合わない」と考えるのではないか。
なので、この「MBAを優遇せず、非MBAとガチンコ競争させる」のがいけてないなら日本企業はオワコンだし、悪くないなら日本企業は悪くないのだと思う。個人的意見としては、
①仮にMBAが優れているのなら、ガチンコ競争のなかで結果出せるはずでしょ、優遇求める必要はなく、ガチンコ競争させる日本のシステムは悪いものではない
②日本企業の問題(=なぜ優秀な人が外資に流れるか)は、競争の勝者に対する報酬がないこと。それが高い報酬なのか早い出世なのかは企業によっていいと思うが、もっと同僚間の差をつけてもいいのではないか
という感じ。少なくとも自分は、仮に日系企業が②のような「うまくやったなら優遇するよ」と言ってくれるのであれば、スタート地点で優遇されていなくても就職したいと思う。
そう思っているので、MBAホルダーの人が「MBAホルダーを雇わない日本企業は終わってる」というのは「俺を優遇しろ」という意味なので、ちょっと格好悪いような気がしていて自分としてはあまり言いたくない。でも、別に採用時点で優遇はしなくてもいいので、その後場合によっては厚遇してくれるという夢物語くらいは提供してくれないと、MBAは日本企業よりも手近な外資系企業を選んでしまっても仕方ないと思う。
続く...