Saturday, January 14, 2012

上級会計メモ(2) ~プッシュダウン会計、配当リキャップ~

1. プッシュダウン会計
※「のれん」と「連結調整勘定」の使い分けがめんどくさいので、まとめてGoodwillあるいはGWと表記する。

ある企業(たとえばマイクロソフト)がある企業(たとえばYahoo!)を買収するとき。パーチェス法が適用されるので、最終的な連結バランスシートは、買収企業(MSFT)の簿価と被買収企業(YHOO)の時価の合計が計上される(含・YHOOのGW)。

ここで、仮に被買収企業(YHOO)の財務諸表が何らかの理由で(他に債権者がいたり、少数株主がいたり)、買収後もYHOO単体で作られ続ける場合を考える。このとき、「特になにもしなければ」、YHOOのバランスシート自体に変化はなく、簿価がそのまま記帳されることになる(=GWなし)。

だが、そうすると、「連結財務諸表におけるYHOO部分の数字」と「YHOO単体財務諸表の数字」が時価と簿価で乖離することになってしまう。この問題を解決するための方策がプッシュダウン会計であり、プッシュダウン会計が適用される場合、被買収企業たるYHOOの財務諸表も時価にて洗い替えされる(=GWが記帳される)。それにより、連結財務諸表に載っている数字と、YHOO単体財務諸表の数字が合致してわかりやすくなる。
上記のパラグラフに乗せると、
・特になにもしなければYHOOのバランスシートには簿価がそのまま計上される
・プッシュダウン会計を適用すれば、YHOOのバランスシートには取得時の時価が計上される
となる。

SECは、取得株式の割合が大きい場合(95%超)にはプッシュダウン会計の適用をすべきであるとしている。

(まとめ)もしあなたの取引先の会社が他の誰かの子会社となったとき、その会社のバランスシートは買収に伴い変化するのか? → アメリカでは、プッシュダウン会計が適用され、時価で再評価されることになる。

※ぱっと自分がぐぐった限りでは、IFRSではプッシュダウン会計はNGみたい。


2. Dividend Recapitalization (配当リキャップ)
あなたが企業に投資したとき、典型的なエグジット方法は(1)IPO(2)第三者への転売 の二つであるが、この配当リキャップは投資家にとって、いわば第三のエグジット手法。

やり方は簡単。あなたが投資した企業に、まとまった負債調達を行わせる。そして、調達した資金を原資として配当を実施させる。負債を増やして資本を減らすだけで、バランスシートの左側(資産)をいじる必要はない。

自分が今日読んだケースの例。
・とあるPEは、とある玩具小売チェーンに$300MMのLBOを行った。PEの自己資金は$18MMで、残りは銀行や取引先の与信。
・そのPEは、企業に$66MMの追加的な負債調達を行わせて、その負債を主たる原資として$85MMの配当を実施させた。
・不幸なことに(?)その企業はその後ほどなくしてチャプター11を申請。最終的には破産している。

このケースで言うと、このPEは、$18MMを投資して$85MM回収したことになる(エクイティ自体がCh.11により紙屑になったとしても)。利益率は実に約370%。
※ちなみに、いまアメリカでは大統領選挙の予備選が行われているが、候補者の一人がこのPEの元経営者。最近読んだこの人に対する批判に対する反論をする記事にこんな記述があった:「(この候補者)は恥知らずにも、この小売チェーンを倒産に追い込みながら900%のリターンを得ている」という批判があるが、まず第一に(候補者)は当時既にこのPEの経営を離れている。また第二に、本件のリターンは900%などではなく370%である...
「900%ではなく370%」というのって、反論になっているのか...?

個人的には、変に転売するくらいなら投資家にとっても投資先にとってもベターなエグジット方法になりうるのではないかと感じているが、上記の事例(色々、自分が読んだケースには入っていなかった事情があるのかもしれないが)を見ると、なんというかモラルハザードの余地がある感じでそこをどうしたものか少しもやもや。

<追記>
・第三者への転売の場合、予期せぬ第四者(?)のビッドへの参入を阻止することは困難。仮にYHOOの経営者がMSFTに身売りしたかったとしても、他の企業、たとえばソフトバンクがMSFTよりも優位な条件を提示したならば、YHOOの経営者はFiduciary Dutyによりソフトバンクに売却しないと訴えられる可能性がある。その点、配当リキャップであれば、還元対象を既存株主にピンポイントで絞ることができる。

・配当リキャップは純資産を目減りさせることから、買収防止策として機能しうる。

・違法配当には注意する必要あり。