Sunday, January 29, 2012

上級会計メモ (5) ~国際的な論点~

1. USGAAPとIFRS

・米国会計基準(USGAAP)と国際会計基準(IFRS)では色々とルールに差異が存在。ルールベースとプリンシプルベースとか、LIFOの利用可否とか、開発費の資産計上可否とか。
・とりあえず今のところ差異が存在するので、分析等の差異には留意が必要。
・米国も2014年までにIFRSに完全コンバージェンスする計画だが...
・現在でも、SECは、条件を満たすForeign Private Issuers(US外の企業で、USで資金調達を行う企業)に対し、IFRSでの情報開示を認めている。

2. リバースマージャー Reverse Merger (逆買収)

・上場手続は非常に面倒で、時間とカネがかかる。そのため、中国企業を中心に、以下のやり方で「裏口入学」的に米国市場に上場する企業が増えている
(1) 米国上場企業の中から、死にかけた会社や休眠会社などを探す
(2) そのリビングデッドを二束三文で買う(※日本では、外国企業が直接企業を買収することはできないので、三角合併をしないといけない)
(3) リビングデッド合併することで、上場ステータスを継承する
(4) あら不思議、USの厳しい上場審査を経ずして、中国のよくわからないけど金はある企業とかが「US listed Company」のステータスを獲得できてしまった

・このやり方自体は違法でないのだが、悪用する事例が増えており、当局や議会が対応を検討している。たとえば、(4)までやって新たに米国投資家の金を集めたものの、米国会計基準へのシフトすらできず倒産してしまったり。リバースマージャー株のパフォーマンスは「正面から」上場した中国企業と比較して著しく悪い。


3. 課税の属地主義への転換

・アメリカは課税について属人主義(全世界課税主義)であり、アメリカ人が日本で稼いでも課税対象となる。
・US企業の在中国子会社とかの所得もばっちり課税する。これについては当然中国側も課税するので、重複分はForeign tax creditという税控除をすることで、結局のところ企業の負担は「海外所得×US税率」となる
・ただし、在外子会社は、米国本社に利益を還元するまで、その課税を繰り延べることができる。企業によっては、「在外子会社の所得は還元させるつもり全くありません、永遠に外国で回します」と主張して一時差異を永久債であるかのように扱い、外国に対する法人税だけ払って逃げているところも(下記4.参照)
・それについて、属地主義に転換する方向で議会等で議論が進んでいる

4. 大企業の租税回避 (1) 親会社がUS(本国)にある場合

・アメリカは全世界課税主義。マイクロソフトがUSで稼いだ所得も、マレーシアで稼いだ所得も、米国IRSは全て課税対象とみなす(怖っ)。二重課税にならないよう、海外政府に払った分については事後的にUSの方で控除が得られるので(Foreign Tax Credit)、結局のところ、海外所得にかかる税率は、外国の税率が何%であろうとアメリカの法人税率35%となる。仮にその外国の税率がゼロであっても。。。

・これに関して抜け穴がいくつかあり、大企業は一生懸命合法な範囲でギリギリのところを突き続けている。

・抜け穴①:海外所得の繰延。
海外所得は上記の通り基本的に課税対象となるが、外国からUS本国に還元(レパトリエーション. 具体的には配当)されるまで課税が繰り延べられる。
すなわち、税効果会計の観点から言うと、海外所得(厳密に言うと、海外所得につき海外税務当局に課税された分とIRSが課税する分の差額)は一時差異として繰延税金勘定に計上されることになる。例えば、もし海外税率が相対的に低いのであればIRSに差額を払わなくてはならないので繰延税金負債が発生する。
しかし、多くの企業は、「海外所得は永遠にUS本国に還元しません」と主張することで、この一時差異をまるで永久差異であるかのごとく取り扱い、海外政府に対してのみ納税しておしまいにしてしまっている。
というのも、「いつかはUS本国に還元します」と言ってしまうと、税効果会計により、帳簿上実効税率をUS税率の35%程度にする必要が出てしまう一方で、「絶対還元しません」と言い張ることで実効税率をUS税率と外国税率の中間地点くらいに抑えることができてしまうのだ。
※ただし、そういった納税回避行為を抑制するための各種法制度もいたちごっこ的に整備されてきており、場合によっては、海外子会社の所得は仮に還元前であっても「みなし還元」みたいな扱いを受けた上で課税されうる。

・抜け穴②:利益のグループ間付け替え
多くの米国大企業が、利益を在外子会社に認識させることにより米国の高税率を回避している。移管しやすい無形固定資産などを帳簿上海外に移したりして。

・さらに:猛烈なロビイング活動
「早く海外所得を還元させろよ」という企業に対する圧力は強い。政治的な意味でもそうだが、実際問題所得を還元させないと海外のもうけをいつになっても回収できないという経済的な動機もある。そんな背景があり、大企業は現在猛烈なロビイングを行っており、「還元しても税金軽減、あるいは免除」という特例が採用される可能性がある(税金が減れば、その分雇用が増える!みたいなやつ)

・財務分析上の留意点
在外子会社がプールしている資金は、本体の連結バランスシート上でキャッシュとしてあらわれるが、実際のところその流動性は高くない。そのせいか、近年、企業の内部留保やキャッシュの残高はどんどん積みあがっている。分析者は、実質的な流動性がどんなもんか検証する必要がある

5. 大企業の租税回避 (2) 親会社をタックスヘイブンに移してしまう場合(コーポレート・インバージョン)

・親会社がタックスヘイブン等第三国にあって在米企業は子会社でしかない場合は、いくら全世界課税主義とはいえ、米国IRSが海外法人の所得を課税することは困難になる。これを利用したのがコーポレート・インバージョン。タックスヘイブンにペーパーカンパニーを作り、在米本社の株式を全株そこに取得させることで、「本社ケイマン、子会社はUSおよび中国」みたいな状況を作ることができる。ケイマンは課税については属地主義なので、USや中国の子会社が所得を得てもその段階では課税しない。彼らが本社に配当してきたらようやく課税できるが、たぶんこの配当税率も低い、あるいはゼロ。つまり、インバージョン前は、USの所得も中国の所得もUS税率35%だったのが、インバージョン後はUS所得こそ35%のままだが中国所得は中国の税率(+ケイマンのゼロ%)だけが課税されてUSの35%は関係なくなる。

・一連の租税回避について整理すると、
(1)本社US,子会社外国→基本的には利益を海外子会社に留保することによりUS課税を繰り延べているだけで、長期的にはUS課税は免れえないのだが、例外を求めるロビイングがわっさかめっさかあって。。。
(2)本社タックスヘイブン、それにUS子会社(元本社)および在外子会社(元々子会社)がぶら下がる
→在外子会社の所得はUS課税から自由になる。本社に利益還元するときにタックスヘイブン国に課税機会が生まれるが、なにせタックスヘイブンなのでそこは低税率あるいは無税でするっと。回避できちゃう。
(3)全社共有の資産を低税率国に帳簿上移管して、負債を高税率のUSなどに移管すると、トータルの税前利益は同額でも、課税額を節約できる。