つい先日、2chかどこかに、東電社員と思われる人の書き込みで「おれたちの給料下げたら原発がメルトダウンするぞ」というものがあったらしい。これを受けツイッター上では「東電の殿様体質はけしからん」「こんなときに何を寝言言っているんだ、給与カットは当たり前で、しかもこれまで以上に働いて事態を解決しろよボケ」的な論調が見られた。
たしかに今回の件で東電の対応が完璧だったとは言い難いのかもしれない。仮にこれを書いた人が本当に東電社員だったとしたら、ちょっと馬鹿だなぁと思う。
その一方で、自分はこうした人々の意見に二つの側面から違和感を覚える。
(1) 昭和的・日本軍的精神主義
ひとつは、「給与がダウンしても、今以上に働いて当たり前」という、昭和的・日本軍的な精神主義。
こういうことを平気な顔で言える人はたいてい、人のモチベーションを軽視あるいは無視している。無理を言えば地球の自転の向きが変わると思い込んでいる人が多い。
組織におけるマネジメント層の仕事は組織構成員のモチベーションを高めてより高いパフォーマンスを実現することだが(Playing Managerならその人自身の仕事ぶりも重要)、こういう人がマネジメントをしていると、本来すべき努力(構成員のEncouragement)をしないまま頑張れとか気合だとか言って無償の努力を求めがち。
これまで以上に頑張ってほしいのであれば、これまで以上に頑張るような仕組みを作るべきであり、それなしに頑張れ頑張れ言うのは自分の無能力を露呈していることと同義ではないか。
でも今の日本って、労働市場が硬直的だし英語使えないからアイルランド人みたいに「気に入らないから国を出る」とかもできない。なので、こういう無茶がかなり通ってしまっている気がする。もう少しだけグローバル化が進んでくれれば、外国人雇用が増えるプロセスでこのような精神主義が淘汰される気がするのだが。
(2) 全体主義
ツイッターで自分が見たような「国の危機なんだから、給料が下がったくらいで四の五の言わずがんばれ」という論法。さてこの論法、果たしてそこまで絶対的な説得力を有しているのだろうか?国のために・皆のためになるのであれば、人は無条件に努力をしないといけないものなのか?仮に給与がカットされてもなお?
自分はこの全体主義が苦手。理由はいくつかある。
- 人の価値観に干渉する:自分は国やコミュニティのために頑張る自衛隊員や公務員を個人的に尊敬している。しかし、他の人に「公務員は頑張っているのだから尊敬しろ」などと言われたくはない。そんなことを言われたら、尊敬していても尊敬したくなくなる。同様に、今回頑張っている人を応援はするが、彼らに対して「お前ら、頑張って当然だ」と言いたくはない。全体主義は自由主義と本質的に矛盾している、と確かハイエクも言っている。
- 「皆のため」は得てして自分のため:
→「皆のため、お前も譲歩してくれ」っていう人。さすがに21世紀の昨今では殆どみかけないが、残念ながらまだたまに見かける。
この手のことを言って譲歩や努力を求めてくる人の多くは、皆のためと言いつつ単に自分の心配しかしていないことが多い。たとえば、全国のパブリックセクターの採用担当者。多くが「国のため、地域のために働きませんか」というマーケティングをしていると思うが、実際のところ採用担当者の何%が本当に国や地域のためにそのようなことを言っているだろうか。より良い学生を誘い寄せるための方便として国のためという言葉を利用している人は本当にいないと言えるだろうか?
また、こういうことを言う人の多くが、そんなエゴから発した自分の発言を「他の皆のため」と信じて疑っていない。意識していない分、一層厄介だ。指摘すると逆上したりするので...
完全に偏見ではあるが、自分は「皆のために譲歩してくれ」ということを真顔で言ってくる人のことを、偽善家のエゴイストと思うことにしている。個人的には、「悪いけど俺のため、無理を聞いてくれないか」と言ってくれれば、その人に対する好意の限りにおいていくらでも無理したいと思う。だが、「皆のため」と言われたら協力できる内容でも反発したくなる。我ながら反抗期の中学生みたいだ。
- 多感な時期に、ハイエクやらフリードマンやら読んでしまいかぶれてしまった(俗にいう中二病)
以上2点において、自分は東電社員に対して「給料が下がって当たり前だが、これまで以上に働け、それが国のため」と真顔で言うことができる人のことを信頼できない。今頑張っている社員は、仮にこれまでの給与水準が課題であったとしても、これまで以上の報酬(あるいは福利厚生でもなんでもいいけど)を与えるべきだと思う。これまでの給与水準が高かったことは正直嫉妬してしまうが、もうこのような事態が起きてしまったのだから仕方ない。給与下げてる場合じゃない。渋々給与上げて、コストは株主か国かが負担するしかない(コストの分担問題についても思うことはたくさんあるが、これはまた別途)。給与カットは事態を悪化させるだけ。
そのようなことを2chやらツイッターに書き込む事象東電社員の情報リテラシーの低さは非難に値すると思うが、彼が批判されるべき点は情報リテラシーの低さであり、給与が下がるとモチベーションが下がるという不満自体が否定されるべきものではない。
などと、今日運転中にふと思ったことを書いてみた。難しい言葉を覚えたばかりの中学生の作文みたいになってしまった。。。