・US企業が外国に子会社を持っているとき、連結決算作成のためには、子会社の外貨建て損益・バランスシートをドルに換算する必要がある。問題は、
(1) いつの時点の為替レートを使うのか? 決算日レートでいいのか?
(2) ドルが下落した場合、在外子会社の資産のドル建て価値は目減りするが、それはどのように記帳するのか?
といったあたり。
・在外子会社の連結については、在外子会社を
(1) Self-contained Subsidiary(独立性のある子会社)
(2) Non-freestanding Subsidiary(本社の単なる出先で、企業としての独立性をもたない)
の2つで異なるルールが適用される。
※日本では、(1)のルールを適用するのが在外子会社、(2)のルールが適用されるのは在外支店という分け方で、個人的にはよりすっきりした分類方法だと思う。
1. Self-contained Sub. の処理
子会社が企画・販売等多面的な活動を行っている場合、「自国通貨が強くなれば利益、弱くなれば損失」という線形的な関係はあまりなく、むしろ自国通貨安のときの方が売り上げが伸びたりする複雑な状況。そのような現状を鑑みると、前期末と当期末のレート差を単純に損益として表現するのはやや問題がある。
そのような考え方に基づき、独立性の強い子会社については、Current Rate Method (カレント法)という手法を用いる。カレント法とは「決算日レートで換算するけど、評価損評価益は計上しない」というややトリッキーなもので、具体的には
・期中の取引(仕入れ、販売、費用等)は、とりあえず現地通貨で記録しておく。
・期末になったら、現地通貨建てのバランスシートのすべての資産負債を、決算日レートでドルに換算する。
・決算日レートを使うと、たとえばGBP1,000の価値がある金融資産が、ドル高ポンド安の結果、前期末段階では$2,000だったのに当期末では$1,500になるということがありうる。こういった評価損益は、損益に計上するプロセスをすっとばして、ダイレクトに純資産の増減に加算する(純資産が増減する点においては損益と似ているが、損益計算書に表れないようになっている)。
・損益計算書についても単純に換算するだけだが、こちらはフローなので、期中の加重平均レートで換算する。
ポイントは
①すべての資産負債を決算日レートで換算
②為替差益・為替差損にあたる金額は、P/Lをすっとばして純資産を直接増減させる
③損益は、期中加重平均レートで計算
という3点。
換言すると、カレント法適用子会社においては、為替の急激な変動が起きたからといっても損益はまったくぶれることがない(もちろん、単なる見せ掛けで、純資産はきっちり増減するのだけれど)。
(追記)
※純資産については、カレント法においても取引レートを用いる。
※配当は、当期のフローなので期末レートで処理したくなるが、取引レートで換算すべき純資産の一部という整理になるので、純資産同様に取引レートを用いる。
2. 独立性の低い子会社の処理
独立性の低い子会社、たとえば「本国が作ったものを外国で売るための店舗」とかは、会計上
「本国の本社が直接取引を行ったかのように」取り扱う。これをテンポラル法といい、基本原則はすべてを取引時レートで記帳しておくというもの。具体的には
・期中の取引(売った、買った)のそれぞれについて、現地通貨建で記帳するのと同時に、その時々のレート(取引時レート)でドル換算してバランスシートに計上する。
・基本的には、取引時レートで換算されたドル建て価格をそのまま用いるが、市場性のある金融資産(含む売掛金等)については例外的に決算時レートで洗い替えする。
・すなわち、金融資産は決算時レート、非金融資産は取得時レートで決算が作成される。
・為替差損にあたるものについては、テンポラル法においては素直に損益に計上する。純資産が増減する点ではカレント法と共通しているし、損益計算書にも載るので分析者は「為替変動要因コミ」の損益を見ることになる。
ポイントは
①原則取引時レートで評価するが、金融性のあるものだけは期末レートで再評価
②為替差損・為替差益は損益にオン
③結果的に、損益は「取引時レートでの損益+金融資産について為替評価損益」となる。
よく新聞記事などに「円高のおかげで大幅な為替損失が発生」みたいなものがあるが、それはテンポラル法を使っているから損失という話になるということだと思われる。仮にカレント法を使っていれば「ま、変動はしてるんだけど、色々あって損益計算書には顕在化しないんですわ」という説明になるだろうから。