前回記事(→リンク)では「CBとは何か」「CBの一般的な会計処理」「Cocosとは何か」について触れたが、今回は「LYONsとは何か」「Anti-Dilutive」「CBのバリュエーション」について触れる。
■ LYONs (Liquid Yield Option Notes)
メリルリンチにより開発された、プレーンバニラではないヤヤコシ系CBの一種。どのくらいややこしいかと言うと
・発行体から見てコーラブル(定められた時点で返済・消却できちゃう)
・投資家から見てプッタブル(決められた日時に、決められた価格で発行体に買い戻し請求できちゃう)
・ゼロクーポン(その引き換えに大幅な割引債となるが、そのおかげで定期的な利息のキャッシュアウトがない)
・投資家にとってコンバーティブル(CB同様、株式に転換できる)
と、およそ想像のつく条項が全てついている「全部乗せ」の様相。ぱっとググって見た論文がLYONsをどのように評価しているか見たら、「一つ一つは目新しいわけではない。目新しくない条項を組み合わせたことがイノベーションなのだ」とのことで、なんだかアントレプレナーシップ系の授業で使えそうなイノベーションであるようだ。単にゼロクーポンCBであるだけならまだバリュエーションできそうだが、ちょっと今の自分には「LYONsのバリュエーション方法」をぱっと説明できるだけの金融力()はなさそう。。
利点は色々挙げられて
・発行体にとっては、クーポン払いがいらない点(そのくせ費用化=節税はできる)、コーラブルである点、転換条項のおかげで(当面の)YTMを低く抑えられる点などメリットがある
・投資家にとっては、プットや転換等選択肢が多く与えられているので、利益を得られる見込みが高い
※発行を手伝い投資銀行にとっては、ヤヤコシ証券なので、手数料をボれる
等挙げられる。まあ希薄化とか高い手数料とか「てか理解できるのあなた?」とか流動性とか色々懸念はあるが、理屈の上では悪くない。
しかも会計上はあくまでCBというか社債として取り扱うことができるので、転換が起こるまではごく普通の割引債として記帳がなされる。もし分離型(Instrument C)であれば前回記事で書いた通りオプション部分の評価もしないといけないのだが、そうでなければ「社債です」と単純に調達額を記帳してその後毎年金利法でアキュムすればいいだけ。簡単この上なし。
(まあでも、「そんなものがあります」レベルでは理解したが、これを顧客に提案するにはあと3ステップくらい実務レベルでの修行が必要だな...)
■ Anti-dilution
まず、自分が誤解していたのでメモしておくと、Anti-dilutionとは「希薄化に対する対立」みたいなノリではなく、「希薄化ではない」=希薄化しない≒一株当たり価値が増加する、くらいの意味合い。Accretiveくらいに考えておけばよい。
CBの文脈で出てくる「Anti-dilution」は2つあって、ひとつは投資家が将来の事後的投資家による追加出資による自分の持ち分の希薄化を防ぐための各種条項。これはまさに「アンチ」という雰囲気。今回整理するのは、「転換の結果、株数も増えるが、利払いがもっと減るのでEPSが逆に増加する」という意味でのAnti-dilution.
希薄化するかどうか判定するための指標のことをConversion Ratioというそうで(債券先物のアレと混同するな..)、「減少する利払(税引後)/増加する株数」で定義される。
例
現状のEPSが$10であったとする。で、CBの転換により株式が10株増えて、税引後利払が$50減ったとすると、Conversion Ratioは$5.ちゃんと希薄化前の利益と株数を使って計算すれば検証できるが、Conversion Ratioが元のEPSより小さいということは、EPSが希薄化するということに同義である。なので、会計上、この場合はEPSの他にDiluted EPSというものを計算・開示しなくてはならない。
次の例として、EPSが$10で、転換によって増える株式が10株、減る税引き後利払いが$150であったときを考える。このときConversion Ratioは$15で元々のEPSより大きい。このとき、転換によりEPSは改善する(Accrettion, あるいはAnti-dilution)。すなわち、転換社債を発行している会社は、Conversion Ratio>EPSという状態を実現できれば、Anti-dilutiveであると言うことができ、会計ルール上Diluted EPSを計算しなくてよい
(増加したEPSを計上するのではなく、もともとのEPS、すなわち$10を計上する)
ボトムラインとしては、(1)アンチと言うが「増価」くらいに理解しておく方がしっくりくる (2)CBを転換したからといってEPSが希薄化するとは限らないというあたりだろうか。
■ バリュエーション(やや自信ないので未定稿)
会計的には「元本とオプション部分が分離設計されていない限り債券として扱ってOK」というCBであるが、理屈の上では2つくらいのアプローチが考えられる。
(1) Compを使う
これはCBを評価するというより、CBに含まれているオプションの価値を抽出する作業。パーで流通しているCBがあった場合、同程度のクレジットのSBのYTMでパー価格を割り引いてやることでおそらく93とか94.5といった数字が出てくる。これがこのCBの「債券部分のImplied Value」と考えることができて、従って100とこの93の差である7が「CBのImplied Call Value」と言うことができる。
このアプローチでは、我々は現在の株価、残存価値、リスクフリーレートを知っているので、BS式で逆算してやることによりImplied Volがわかる(だから何だ...?)
(2) ペイオフを作り、ガチンコ勝負
CBのペイオフは2回ほど屈折するポキポキ直線で表現できる。そして、これは、原資産とコールで再現できる。すなわち、
(i) 企業価値がCBの額面以下のときは、ペイオフ=企業価値 (※先同順位債権がないという前提)
(ii) 企業価値がCB額面を超えてしばらくは、ペイオフ=額面価値
(iii) 企業価値がY=額面 とY=転換後のCB投資家の株式シェア×企業価値 の交点より大きくなったとき、ペイオフ=CB投資家の転換後の持分×企業価値
となる。
このペイオフは、通常原資産-額面価格をストライクとするコール+(転換後CBシェア)×(交点の価値をストライクとするコール)で再現することができる。なので、各パラメータを入力してやれば、このSynthetic Portfolioの価値が計算できる、、、はず。試してないから実際のところわからんけど。。
また、逆に、CBやConvertible Preferred Stockの額面および転換の諸条件がわかっていれば、逆算で投資家が織り込んでいる企業のPre-money(あるいはPost-money)価値も計算できる。
※まあしかしあれだな、この手のお勉強メモは、後で振り返る限り、MBA版中二病の発露なのかもしれんな、なんて思ったり。。