この授業では、いわゆるアルファについて色々な観点から見た。
「αとは何か」「マルチファクターモデルで見るとαはどうか」「αに自己相関性はあるのか」「αは実際存在するのか」「ロングオンリー、HF、PE等でαに相違はあるのか」等。
で、そんな中で印象に残った話の一つが、BerkとGreenが2004年に発表した論文の内容で、
・投資業界において、制約条件となっているのは資金ではない。金は余っている。
・制約条件、足りていないのは運用スキルあるいはそれを持った人。
・という需要/供給条件なので、すべてのアガリ(Rent)は投資家(金)ではなくファンドマネージャー(人)に帰属することになる。
・具体的には以下のようなプロセス:
(1) スキルが高いファンドマネージャーのもとに金が殺到する (カネは制約条件ではない)
(2) ファンドサイズが大きくなればなるほどリターン(α)は低下する
(3) 結果的に、αがゼロになるまで資金流入が続くことになる。カネは制約条件ではなく有り余っているので、αがプラスのところで資金流入が止まることはない
(4) その結果、平均して全てのファンドのαはゼロになることになる。この世界観では、αではファンドの実力は最早測定できず(みなゼロなので)、ファンドサイズが実力のメルクマールとなる
・実際、彼らの測定によれば、αは有意には認められない。
これは、HFとかのパフォーマンスをどう解釈するかといったテーマの講義の中で取り上げられたものだが、金融業一般に応用できるコンセプトであると思う。すなわち
・カネは余っており、少なくともマクロレベルでは希少性を持たない
・制約条件(足りていないもの)は満足できるリターンを上げる投資主体である
・現実のビジネスの世界では、アセットマネジメントの世界のように「αがゼロになるまで資金流入が止まらない」ということはないが(例:北海油田を見つけたとしても、石油を掘るのに必要な資金を集めたらあとは不要になる)、
・とはいえ、アガリの大部分は、スキルあるいは投資機会を持つ事業主体・投資主体に帰属することが多くなり金融投資家はカネを潤沢に持っているというだけではリスクに見合った以上の超過利益を獲得することは難しい
さらに換言すると、
・平均的/長期的に均された状況においては、投資家(カネの出し手)と事業家(カネの使い手)であれば儲かるのは基本的に事業家。
・カネを出すだけのビジネスは、リスクに見合ったリターンは獲得できるが、αの獲得はムズい。
・なので、投資家にとっての示唆は「リスク見合いのリターンであきらめるか、あるいは例外的にαを獲れそうな状況を探すか」。
・個人レベルでの示唆は「金を出す側ではなく、金を出してもらう側に行った方がワリがいい可能性が高い」ということではないだろうか
といった感じ。
少なくとも日本では、このコンセプトはかなり当てはまりがいいように思う。一般投資家vsファンドという構図でもそうだと思うし、投資ファンドvs投資先企業 という構図でも当てはまると思う。
これをもとに色々思うこともあるのだが、あまり考え出すとドツボにはまるので、とりあえずここまでとしておきたい。