一般的に、少なくとも日本では、Jobsは「偉大なイノベーター」という文脈で語られることが多いと思う。実際、iPodやiPhoneといった革新的な製品は、Jobsのリーダーシップなしではこの世に生まれることはなかったのだろう。
他方、このRumeltというおっちゃん(授業に出たが、枯れた爺さんという感じだった、、、)に言わせると、彼がすごいのは、
・再就任してすぐ、極限まで会社をスリムにした。色々な事業から撤退し、人を切り、etc.
・で、一部の製品に資源をフォーカスする方向にかじ取りを切り替えた。
上記2点は、いわゆる、選択と集中。さほど目新しい話でもない。その教授が感銘したというポイントは、彼が直接Jobsから聞いたという下記のような話:
教授「あなたの再建手腕は素晴らしい。が、Wintel圧倒的優位の業界構造はいまだ変わっていないのだが、あなたが今後どうしようとしているのか見えない。あなたはこれからどうしようと考えているのか?」
Jobs「自分は、次の大きな動きを待っているのだ」
教授が感銘を受けたのは、「選択と集中による立て直しを首尾よく進めたこと」でもなく、「壮大なビジョンを掲げたこと」でもない。彼が感銘を受けたのは
・業界の、要所要所でGame Changingな変化があるという潮流を正確に理解し、
・その変化を絶対逃さないようにすべく、
・今の時点で何かするというのではなく、その来たる将来に最大限迅速にその変化を捉えることができるよう、組織をスリムにしておく
という考え方だそう。
実際、Appleは、その後、大きな変化を捉えて、デジタル音楽市場やスマートフォン市場で圧倒的な優位を築くに至っているが、それはひとえに、Jobsが「変化にいつでも対応できるような」スリムな組織を作り準備していたからだ...というオハナシ。
この話を聞くと、Jobsの経営について、多少なり一般人でも参考にできるところがあるように思えてくる。
一般的に言われる、Jobsのイノベーティブなところや、クリエイティブなところは、正直学習やトレーニングで再現可能なものではないと思う。「へーすごいね」以上、参考にできるものはないように思う。
他方、上記に上げたような「変化に備え、対応できるような組織を作っておく」という発想、及び実際そのようなスリムな組織を作ることは、ある程度模倣・参考可能なものであるように思われる。たとえば自分が○ニーのコンサルをやったとする。仮に自分が優秀なコンサルでも、ソ●ーの将来向かうべき重点分野について、明確にCEOを説得できるとは思えない。しかし、将来チャンスが来たときにそれを可能な限り効率よく掴めるように、現時点の組織をシェイプアップしておくという提案はアリなのではないかと思われる。
最近ではデザイン思考やアントレ教育に代表されるように、MBAでもクリエイティブな領域に対する理解・関心が強まっている。しかし、そういった領域に立ち入ることはそれはそれとして、「来たる将来に、ときの経営者がうまくイノベーションできるよう、地盤を整えておくこと」についていえば既存のMBAの考え方で十分対応できるはずだ。なんというか、今直ちにクリエイティブな構想を出すことだけが最適解ではなく、将来そんなビッグチャンスがきたときのために筋トレしておくという発想もあるのだなぁ、そしてそれなら既存の枠組みでもちょっとは役に立てそうだなぁ...などとちょっと考えた次第。
※ でも、こういうオハナシは楽しいが、学校で学ぶことなのかは不明。