Monday, August 23, 2010

沖縄を英語特区にしてみると

最近サマースクールが終盤で暇なので、ついついたくさん書いてしまう。

NYT:"Western Schools Sprout in South Korea"
http://www.nytimes.com/2010/08/23/world/asia/23schools.html?_r=1
韓国(記事では「韓国」としか書いていないが、まあ韓国政府だろう)が観光地として有名な済州島を英語特区として、島内(一部なのか全部なのかわからないけど、さすがに一部だろう)においては英語しか使えないというルールを設け、欧米の名門校の出店を複数招致するそうだ。
正月ゴルフ特番で英語禁止ホールというのはよくあるが、英語縛りというのは初耳かもしれない。
趣旨としては、英語教育の環境を整備することで、留学せずとも英語教育の場が享受できるようになるといったところ。ウォン安で輸出絶好調となりバカスコ儲けて外貨が貯まった韓国が、外貨の有益な使い方を模索したといった感じなのだろうか。企業家出身の大統領が好みそうなアイデアだと思う。

Twitterなどを見ていると、日本悲観論者の多くからこの構想に対する賛意が出ている。多くの意見は、日本政府の「無策」の非難とセット。「韓国はカルテル容認政策・通貨安政策・インフラ輸出・教育政策等国を挙げて勝負しているのに、国が先導を取れない日本が嘆かわしい。日本政府頑張れよ」といった感じ。

自分はこの意見にまったく賛同できない。むしろ、そんな政策が通ってしまうような国の国民でなかったことに強く安堵の念を覚えた。論拠は主には以下のようなところ。

・そもそも、何か国民の多くが抱えている問題があったとしても、それを国が対応するという発想が古臭いし社会主義的。民間の企業なりNPOなりでやりたい人が勝手にやればいいのであって、国が強制する性質のものではない。国が出動せざるを得ない市場不経済って一体何なのか。

・税金を投入して行われるこのプロジェクトのリターンは公共の福祉に資するものなのか。教育には外部効果があるという意見もあるが、そこまで大きな外部経済ってあるのかな。

・済州島の住民には相当程度デメリットがあるのではないか。経済的には潤うだろう。また、知名度も一層上がることだろう。しかし、開発する分だけ、島の自然や文化や言語といったものが損なわれるのではないか。

自分は韓国人に対して偏見や特定の思いを持ったことがない(厳密に言うなら、そういった感情を抱くほどには彼らを良く知らない)。学校の同級生しか知らないが、礼儀正しいし明るいしとてもいい人そうだ。
しかし、国としての最近の韓国政府の手法にはアレルギー反応がある。社会主義的に過ぎる。
大統領だか誰だかの強いリーダーシップのもと、不必要に大きなポジションを取っている印象が強い。民間がポジションを取って失敗するのはおおいにアリだと思うが、税金でサムソンを支援されたら、サムソンのライバル企業の経営者はどう思うだろうか。かんぽの宿とやっていることは何ら変わらないと思う。一見したところ有益に見える度合いが多少強い程度の話に過ぎず、「そんな金あるなら減税か還付で返せ」という反論が共通して成り立ちうる。

建国者がそういうことをやるのであればまだ理解できる。また、国民全体で知識レベルが十分でない(教育の機会が十分でない)途上国のリーダーが国をリードするのであるならこれまたわかる。
しかし、ある程度成熟した民主主義国家で、単に先人が築いたものを引き継いでいるに過ぎない建国者以外のリーダーには、もう少し権力の使い方について自制心を持ってやった方がいいのではないか。

自分は、ここ最近のパフォーマンスがいいことを理由に韓国政府を評価することをよしとしない。リスクとリターンの両方を考慮して初めて適正な評価ができると思うからだ。今の韓国政府のパフォーマンスが良さげに見えるのは、単に取るべきではないリスクまで取ってしまっているからだ。しかし、投資とはどれだけ正当化しても所詮は博打であり、長期平均的には結果はあるべき水準に納まると考えるのが保守的・健全だろう。遠くない将来、国として安易にポジションを取ったことに対する報いが来る可能性を懸念せざるを得ない。少なくとも現時点においても、国がやってしまっていることにより民間部門で相当程度クラウディングアウトが発生しているのではないか。

また、関連して、今の日本の政治は衆参の勢力がねじれていることや政治不信を主因に停滞しているように言われるが、これは権力の不必要な行使を抑制して欲しいという民意が適切に現れている結果だと思う。日本は既に十分民主主義国家として成熟できていると思う。リスクを取ってでも為すべき目標があるなら、それは殆ど一つの例外なく民間が成し遂げてくれるはずだ。政府の仕事は自らリスクをとることではなく、民間プレーヤーがリスクを取りやすいよう各種プラットフォームの掃除をしてやることに過ぎないのではないだろうか。

「未整備の沖縄を英語特区にしよう」という構想が出ない日本を嘆くのではなく、自分はむしろ
好意的に評価したいと思う。