Friday, November 25, 2011

戦略的起業??

アントレプレナーシップと戦略に関するHBSのリーディング。超ざっくり言うと「みんな、そんなに考え抜いたうえで会社作ったわけじゃないから。成功要因はビジネスプラン以外のところにある」みたいな感じのもの。


■   商機をつかみ損ねるようでは、いくら入念な分析をしても却って害になるだけ。

   ○   1月に始めていれば成功していたビジネスは、12月に始めても成功しない。詳細な分析は往々にして適切なタイミングでの参入を遅らせるだけのものだ。

   ○  教授が学生を使って1989年に500社に対して行った調査によると、成功した起業家の多くは調査・分析にはさほどの時間を費やしていない。ちゃんとしたビジネスプランを書いてから始めたのは全体の28%に過ぎず、41%はビジネスプランなど全く書くことなく事業を始めている。実際の顧客とのやり取りを通じてビジネスを進化させているような事例がみられる。

   ○   1990年にNational Foundation of Independent Businessにより行われた2,994のスタートアップに対して行われた調査によれば、調査や企画立案に長い時間を費やした創業者が最初の3年間を生き延びる可能性は、企画立案なしで単にチャンスをモノにした創業者の生存可能性より低かった。   


■   しかし、成功した起業家が皆戦略なしに無為にリスクテイクしていたかというと、そういうわけではない。

   ○   彼らの多くは、「入念な分析」と「無為無策」の間にある「迅速でお手軽なアプローチ」を使っている。起業家は完璧を期していない。一般的な企業実務とは異なり、アントレ的アプローチは経済的で時宜にかなっているものなのだ。その一般的な分類は以下の3つで、以下これらについて論じる:

   1.   すぱっと商機を嗅ぎ分け、いいアイディアと悪いアイディアを選り分ける

   2.   ぱっとアイディアを分析する。2,3の重要な論点にフォーカスする。

   3.   100点満点の答えが出るまで動かないのではなく、分析しつつ行動する。方向転換する準備を怠らない。


1.   迅速なスクリーニング

   ○   駄目なアイディアをすぱっと切り捨て、少数の見込みあるアイディアに集中すること。いいかダメか選り分けるのはデータではなく判断力。アイディアの良しあし、あるいは実行力の有無について、下記のクライテリアなどを参照しつつすぱっと判断すること。

   ○   多くのベンチャーは、創業者が顧客あるいは従業員として実際に経験した問題を解決するために作られていることが多い。大学出の若者がゼロから築き上げる事例はレアケースだ。自分の調査によれば、71%の起業家は過去の仕事で遭遇したアイディアを修正あるいは模倣することでビジネスを始めており、20%は偶然アイディアを見つけている。調査の結果アイディアをひねり出した人は全体の4%に過ぎなかった。

   ○   素晴らしいプロダクトを作ることや商機に繋がる外部要因の変化を察知することは重要。しかし、同様に重要なのは実行力。とりわけ、簡単にパクられないようにするための実行力が重要。特許取得、秘密保持、ブランド確立等、参入障壁を築き上げる実行力が重要。

   ○   似たようなアイディアを複数の人が持っているような状況では、アイディアを洗練させた人よりも、とにかく初めて迅速に成長させた人が勝つ。


・  スクリーニングにおける3つのポイント

   ○   世界を変えるのか、ニッチなのか:野心的な目的をもつ会社なら強いクリエイティビティや実行力が必要。ニッチを捉えようとする会社なら、ものすごく斬新なアイディアを持っている必要はなく、単にあなたが見つけたニッチの顧客を満たすようなプロダクトを用意することだ。また、ニッチの場合、顧客教育コスト・流通や生産におけるイノベーションはペイしないのが普通。既存の流通網を使って、既存の枠組みの範囲で、既存のニッチ顧客にサーブすることが肝要。自身のビジネスがどちら側なのか検討すること。

   ○   外部環境は変化しているか:新しい、あるいは変化している業界で商機を見つけることは、成熟した業界で商機を見つけることよりも容易。成功するまでの実行の段階では大きな不確実性が伴うが、それでも外部環境の変化(新市場の登場・既存市場の変化)が成功のための大きなレバレッジを提供してくれるのは確か。

   ○   バランスシートで勝負するのか、人の才覚で勝負するのか:資産(工場・ブランド・ホテル等)の良しあしが勝負の決め手の場合、そういった資産を蓄積することは自然に参入障壁となる。スタートアップがこういったビジネスに食い込むためには、技術革新などがマストだ。他方、人の才覚が勝負の決め手となるようなコンサルティングやヘッドハンティングのようなビジネスであれば、決め手のかなりの部分が創業者の才覚となる。ただし、組織として大きくするためには、創業者は組織化に関する能力にも長けている必要がある。すなわち、良い人材を採用するスキル・従業員のインセンティブを良い方向に刺激する能力など。


2.   アイディアを「ぱっと」分析する:

・   NPVのような包括的かつシンプルな尺度など使えない。ケースバイケースにいくつかの論点について検討しないとならない。主なものは以下のようなもの:

   ○   資本集約度
   ○   高マージン
   ○   低固定費
   ○   廃業コストの低さ
   ○   なるべく早い段階で失敗を認識し、引き返せること
   ○   失敗しても時間・金・評判などを極力失わないこと
   ○   流動性:他の商機に移りづらいような非流動的なビジネスは創業者にとってシンドイ
   ○   創業者の価値観や求めるもの:デコボコ道を進み続けるためには、情熱の維持が必要。
        野心的なビジネスには狂信的と言えるほどのコミットがある人が適しているし、逆も然り。
   ○   人で勝負するビジネスの場合、育ったところで売るというのが難しいので、長期的なコミットが必要。


3.   お手軽な企画・分析

・   出発点として、起業家はリサーチに費やす時間を極小化して、行動に時間を割く必要がある。起業においては通常の企業戦略よりも論点が多く、そもそも困難。考えるべくは以下のようなもの:

   ○  不確実性の存在を認識すること。そして、その不確実性は、調べてなんとかなるものではない。
   ○  できない調査をしようとしない。
   ○   FedExのような野心的なベンチャーを作るわけでもないなら、包括的なビジネスプランは不要。
   ○   売上予測はとりわけ困難だが、顧客(購買プロセス・プロダクトの使い方)を理解することは有益。
   ○   参入障壁
   ○   ニッチ:規模の経済性がないので、顧客獲得コストが便益にペイしない可能性があるので注意。
        また、既存品に対する圧倒的な優位性がないと、顧客は自社プロダクトには移行してくれない。
        また、協力者(販売代理店等)の取り分が過度に小さいようではビジネスが続かない点にも注意。
        ニッチなら良いわけではなく、然るべきコストは必要で、それを回収できるか検討する必要。
   ○   変化が速い業界では、戦略よりもオペレーションが重要なことが多い。製品開発計画や採用など。
   ○   才覚勝負の世界では、商機分析の暇があれば、今目の前にある商機をつかむことに専念すべき。
        組織に関する戦略は予め練っておくほうが良い。
   ○   ここまで分析の無意味性を強調してきたが、短期資金繰りに関する簡単な計算は身を助ける。


■   戦略と行動の統合

   ○   そもそも行動とプランニングを切り分けることは困難。行動しないと詰め切れない戦略も存在。
   ○   戦略が定まり切る前に動くメリットが存在。
   ○   スタートアップの規模により、試行錯誤できる程度が異なる点には注意。
   ○   ステージに分けて分析することもできる。ちょっと分析しては動いて・・・
   ○   迅速な改善が鍵。問題直面→分析というので良い。
   ○   スマートかつ傲慢であれ:誤りを修正できる程度において傲慢とも言える自信が必要。