私的再建か公的再建(Chapter11)かという記事についてのメモ。
■ 先行リサーチ
□ Jensen(1989):高レバレッジ企業の方が、金利や元本の未払いというトラブルが早期に発生しやすく、そのため低レバレッジ企業よりも早期に状態改善に着手する。すなわち、高レバレッジ企業はより私的再建を志向し、債権者に利益をもたらす
□ Gilson et al.:80年代のNYにおいては、サンプル企業のうち半分は私的再建を選択したし、Chapter11を選んだ企業の多くも新聞報道等によればまずは私的再建を志向していた。すなわち、企業は概して私的再建を好んでいた。これは私的再建の方がコスト(再建手続きにより社外に流出する富の量)が少ないと言うことの裏返しであると考えられる。
■ コスト比較:私的再建 vs. Chapter11
□ プロフェッショナルフィー(弁護士・投資銀行):彼らのフィーは基本的に時給。手続きにかかる時間はChapter11の方が長い。したがって、プロフェッショナルフィーは私的再建の方が低コスト。私的再建であれば、払えなくなった債務に関する関係者とだけ相談すればいいが、Chapter11をやってしまうと、「俺は優先順位高かったし金額もたいしたことなかったので問題なかったのに...」という人ともいちいちネゴをしなくてはならなくなる。Chapter11では彼らへのフィーはきっちり支払われるので、彼らに節約のインセンティブがない可能性がある。考えられる対応策としては、彼らへの報酬をキャッシュではなく会社の株式や債券等企業価値に連動する証券にすること。そうすれば彼らの利害と会社あるいは債権者の利害が一致する。
□ 裁判官=経営者:Chapter11では裁判官(破産管財人)が会社資産の管理を行うことになるが、これが会社の今後の資産効率を悪化させる可能性がある。管財人の仕事は(1)Chapter7よりは多額の金額を弁済できるようにすること(2)近い将来再び倒産しないようにすることに過ぎず、ROIを最大化することを考慮する必要に迫られていない。
□ 投資機会の喪失:倒産手続き中にもたもたしていることで、投資機会をみすみす逃すコストが存在しうる。このコストは、より手続きに時間のかかるCh11でより大きい。
■ Chapter11にも利点が
□ ニューマネー調達可能性:Chapter11であれば、DIPファイナンスが調達できる。
□ 金利発生が止まる。
□ Automatic Stayにより貸しはがしなどが食い止められる。
□ 再建案策定のためのVotingが簡単。
■ Holdout 問題
□ Holdout: 「あいつが債権カットに応じれば、俺は応じなくても大丈夫。なので、俺は債権カットに応じない」という債権者が出てきてしまうこと。
□ 公開されているような社債はこの問題が発生しやすい一方で、私的債権(銀行等)はHoldout問題が比較的生じづらい。私的に貸すようなエンティティは得てして銀行等大きくかつより合理的な(ホンマかいな)主体であり、自分がHoldoutすることによる悪影響により自覚的であると説明されうる。
■ 経営者のインセンティブ
□ 私的再建にあたり、経営者は得てして債権者を重視し、株主はあまりケアしない。これは経営者が会社を追放されないようにするためのインセンティブを持っているためである可能性がある。
■ 政策変化の影響
□ ここまではコスト面での私的再建のメリットが強調されていたが、近時の法・税制改正により、Chapter11が相対的に有利になりつつある。プレパッケージドChapter11はそのような状況で生まれた一種のハイブリッド。